Love Eater Ⅲ
そんな光景にソルトも顔を綻ばせずにはいられず。
そして花鳥と六花両者に向けてその手を伸ばすと、
「頑張ったな」
今までの全ての時間に労いを告げてワシャワシャと頭を撫でるのだ。
そんな刹那に驚愕の表情をみせたのは六花本人であるのか花鳥の意識であったのか。
撫でられた頭を押さえ透き通る様な水色の双眸には驚きを揺らしていたが、次の瞬間には花咲く様にふわりと笑う姿が印象的。
ソルトがそんな姿を捉えた途端、ぐらりと視界が歪んで平衡感覚が可笑しくなってしまう。
まるで強烈な眠気にでも襲われているような感覚に近く、抗ってもどんどんと視界もぼやけて意識が遠のき始めてしまうのだ。
そんな合間に、
「私はもう眠るわね。百夜の気配に包まれるここでゆっくりと、」
花鳥の言葉がソルトの頭の中で直に響く様に聞こえ、直後にはふわりと浮上するような感覚まで覚え始めたのだ。
ああ、これは……戻り始めているのだ。
百夜の中から現実に。
そんな理解に及べば特に抗うつもりはソルトにはない。
それでも一つと、思いだした事には急いで口を動かし。
「『馬鹿女』。百夜からの伝言だ」
律儀にも嫌味な悪態の伝言を音として弾いていったのだ。
それでも、それが意識の限界。
もう限界だと目蓋が下りきった頃合い。
〝フフッ……〟
意識が途切れるまさに直前、微かに聞き取った笑い声は実に嬉しそうに感じられた。
目に見えておらずとも幸せに満ちているようなそんな声音。
そんな事を思ったのが最後、ソルトの意識はプツリと途切れていったのだ。