Love Eater Ⅲ



「っ……待ちなさいっ!」

そんな風に時雨が手を伸ばしたところで最早六花の思考は途絶えており発動した術が止まることはなく。

時雨の動揺など知る由もなく、瞬きを忘れていた水色の双眸は静かに目蓋の幕まで下ろしてしまったのだ。

次の瞬間には一瞬で六花の身体は塵となって消える。

時雨も百夜もそう予想し、同時に成す術がないと絶望も過った刹那だ。

突如六花の姿は閉じたばかりであった双眸を開眼し。

それと同時、それまでさらさらと崩壊しかけていたものも逆戻しの様に寄り集まって六花の身として修復され始めたのだ。

一体何事であるのか。

百夜も時雨でさえも状況の予測は立たず、ただ目の前で起きた事態に放心してしまっている。

それでも、次の瞬間には百夜だけはその異変を小さくも嗅ぎ分け驚愕の色を変えたのだ。

どこか半信半疑、それでも淡く焦がれる感情を入り混じらせながら、

「花……鳥……?」

そんな筈はない。

あれは六花の身である事は間違いないのだ。

それでも再び目覚めた六花からは実に懐かしく過去に溺れた匂いと気配がするのだ。

誰が間違えようと自分が間違えるはずがないと、もう一度確かめるようにその名を呼ぼうとした瞬間。

『そう…私のこの術が発動してしまったという事は想定していた最悪の事態に陥ってしまっているという事なのね』

「っ……これは…」

「本物のあの子ではありませんね。あの子が施した術による意志の再生」

そう、在る身は六花のものであるが、突き動かしているのは最早六花の意思ではない。

六花の体を介して花鳥の意識が再生されていると言う状態。


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