Love Eater Ⅲ
それなのに、どうしてか佇む姿は六花とはまるで違う空気を醸し出す。
六花の肉体である筈なのに。
その表情も、口調も、漂わせる空気も、髪の毛一本に至るまでまるで別人のように雰囲気を変えて伝えにくる。
決して生きた花鳥の意識が今現在にそこにあるわけではないのだ。
それを証拠に、澄んだ水色の双眸は誰の事も捉える事はなく、何処とも言えぬ空を見つめて、誰の言葉にも反応せずに言葉を弾いているのだから。
それでも、表情はまるでこの事態を実際に捉えているかのように悲観を映して言葉を弾き始める。
『発動なんてして欲しくなかった。この子だけは本当の愛情だけに生きる価値を見出して笑っていてほしかったのに』
「…花鳥」
「……」
『でも、こうなってしまった。どんな形にせよこの子の前に時雨が立ったのでしょう。そして、【夜音】と呼んだ。私はそれをリミッターに百夜に呪いをかけたの。だから、百夜?そこにいるのよね?』
「おるわ。馬鹿女」
『ごめんなさい、隣合う道を選べなくて。ありがとう、この子を守ろうとしてくれて。大好きよ、私の百夜』
「っ……」
分かっている。
今この姿にどんな感情を抱き吐き出そうと伝わる事はないのだと。
ただの一方通行の感情の吐露になる事を。
それ故に歯痒くもどかしくやるせなく。
どうして触れられぬのかと息苦しささえ覚える程。