Love Eater Ⅲ
「……いないな。あそこに投獄されているのは夜音だけだ。」
「何故彼女だけ?」
「……国も人も一番上に立つものに左右されるものだろう?統治するものが乱れれば当然国も人も荒れる。分かるか?その立場にあたる者は絶対に私利私欲のまま行動してはいけない」
「私利私欲って…」
「私利はともかく私欲ではあるだろう。誰かの助けになりたいというのもまた欲求の一つだ。当然統治するものとしてその心は必要でもあるが状況による使い分けやタイミング、節度も当然必要。誰彼構わず、なりふり構わず、目の前の困難をその場で全て助けるなんて言うのは美談だろう?」
「それは……まあ難しいご時世ではありますけど」
「……まあ、それを出来るやつもいるだろうし、出来る奴はすればいい。ただ俺と夜音は上に立つものだ。その時の感情に突き動かされて安易に動いてはいけない立場なのはお前もわかるだろう?
「……はい、」
「それをわかっていながらあいつはあの行為に走った。結果どうだ?その志は美しくも、人間の生態系を狂わせ魔族にも人間にも余計な繋がりを生んで波紋を広げたんだ。お前とてその扱いきれぬ力に悩む者の一人だろう?」
「……」
「夜音は多くの者を救ったのかもしれん。だが、それ以上に多くの者を苦難に落とし込んだのだ。今も尚、これからもずっと」
「……」
「統べるべき血の者が己が情のまま秩序を乱した。大罪であろう?」
「そう……ですね…大罪だと思います」
それがどんな善意の心だとわかっていても。
夜音の心根がどれほど美しいものだとわかっていても。
生み出された結果は残酷にも夜音の意に反して苦難に満ちている。