私と結婚しませんか
#09 余韻
第九話『余韻』
◯スーパー、試食コーナー
源蔵「蒼ちゃん、うちの孫の嫁にならん?」
源蔵(げんぞう・57)、青汁を飲む。
蒼M「源蔵さんは、ここの常連客。
やたらと絡んでくるフレンドリーな関西出身のおじさんだ」
蒼「源蔵さんのお孫さん、おいくつでしたっけ」
源蔵「中三や。ワシに似てシャイな子でな。ガールフレンドの一人もおらん」
蒼(アンタのどこがシャイなんだ)
蒼「中学生を結婚相手にすすめるって、どうなんですかね」
源蔵「なかなかの男前やけど。アカン?」
蒼「むしろお孫さんが嫌がりますよね」
源蔵「蒼ちゃんみたいなべっぴんさんやったら喜ぶで。アイツにはな、姉さん女房が似合っとるわ」
蒼(ここは結婚相談所ですか?)
蒼M「と、このように源蔵さんはツッコミどころ満載である」
源蔵「これ旨いなあ」
蒼「蜂蜜入りなので飲みやすいんですよ。お孫さんにも美味しくいただいてもらえるのではないかと。受験期の夜食と共にいかがですか」
源蔵「孫がダメならワシの嫁にこんか?」
蒼「帰って奥さんに叱られますよ」
源蔵「おらんおらん。愛想つかして逃げてったわ」
蒼「……それでも愛しておられるんですね」
源蔵「え?」
蒼、視線を源蔵の左手(薬指の結婚指輪)に向ける。
蒼M「わたしは、父が結婚指輪をしているところを見たことがない」
源蔵「蒼ちゃんには、かなわんなあ。女房なあ。先に逝ってもうてん」
蒼、目を見開く。
源蔵「かわいそうに。病気でな」
蒼「そうだったんですか。すみません、わたし余計なことを――」
源蔵「ええねんええねん。いつも余計なこと言って蒼ちゃんを困らせてんのはワシや」
蒼M「自覚あったんかい」
源蔵「それに、しょっちゅう叱られとったんは事実やで。ワシ、プレイボールやから」
蒼「それを言うならプレイボーイです。シャイボーイ設定さっそく覆しましたね」
源蔵「それでも最期までラブラブやったけどな」
蒼M「源蔵さんは奥さんを亡くしていなければ、しわくちゃのおじいちゃんとおばあちゃんになっても一緒にいたのだろうか。
だとしたら本当に凄いことだと思う。
わたしには、やっぱり誰かとのそんな未来は想像できない。
桂さんと、離れたくないと思う。
それでも五年、十年先のことが考えられない。なにも見えないのだ」
蒼「心配しなくても、そのうちお孫さんには恋人の一人や二人現れますよ」
源蔵「二人おったらあかんがな」
蒼「あなたがそれを言いますか。お若い頃の通り名は“女泣かせのゲン”だったんでしょ?」
源蔵「よう覚えとるなあ。蒼ちゃん記憶力ええわ」
蒼(というよりは、その武勇伝なら三回は聞いたからな)
源蔵「孫は奥手やねん。器用なことでけへんわ」
蒼「わかりませんよ? なにせ源蔵さんのお孫さんですからね。そのうちそっくりになるかもしれません」
源蔵「しょうもない男になるって言っとる?」
蒼「いいえ。チャラけているようで愛する人に一途な紳士に」
源蔵「はっはっ。こりゃあ一本とられた。ほんならもらっていくわ。三箱ほど」
蒼「お買い上げありがとうございます」
源蔵「ほんま蒼ちゃんには元気もらうわ」
蒼「それはよかったです」
源蔵「まあ考えといてーな。ワシの嫁になるハナシ」
蒼「はいはい」
蒼(する気ないクセに)
蒼、呆れ笑いで源蔵の背中を見送る。
蒼M「いつも通りの日常が戻ってきた。
そうだ、これこそが、わたしの日常だ。
試食販売の傍ら人間観察をし、創作のヒントを得る。
苦手な環境下で敢えて派遣社員として働こうと思ったのはそれが一番の理由だ。
非常にマイペースに働け、それなりに人とのコミュニケーションもはかれ(ガッツリ接客するのは苦手だ)、安定した収入が入る。
桂恭一の存在は。あの男との出逢いは、イレギュラーにも程がある。
誰があんな強烈な客くると思う?
しかしまあ。
あの男と過ごした夜は――」
蒼(スゴかった……!!)
蒼、顔を手で覆って赤面。
蒼M「やっぱり桂さんは紳士の仮面を被ったオオカミだった。骨抜きにされた」
× × ×
(フラッシュ)
朝、蒼の部屋。
蒼、ベッドで目覚める(裸)。
そこに桂の姿はない。
ダイニングの机の上に置かれた桂の名刺。
【代表取締役社長 桂 恭一】
× × ×
蒼M「きっと、わたしに伝えてあった時刻より、はやくに家を出たのだろう。
ダイニングテーブルの上に置いていた鍵を使い外から施錠したようで、玄関のポストに入れてあった」
蒼(まさかのトップ。いや、偉い人だとは思っていたけど、あの若さで社長とは……。っていうか起こしてくれればよかったのに)
蒼M「いってらっしゃいって、言ってあげたかった。見送ればきっと喜んでくれただろうから」
蒼(桂さんが来ないスーパーは平和そのものだな)
蒼M「離れた傍から会いたくなった。
恋愛から遠ざかったわたしが、また、こんな気持ちを抱くなんて」
◯蒼マンション、エントランス(夕方)
蒼(けっこう売れた。よかった)
蒼、ポストから手紙を取り出す。
蒼(あれ。これは……)
(定形外郵便)
送り主、木崎航
蒼M「サイン本!!」
蒼(キターーーッ)
蒼「木崎くん、もう送ってくれたんだ」
◯同、ダイニング(夕方)
蒼、封筒から単行本を取り出す。
蒼(待って。これ。まだ発売されてないやつ……!?)
蒼「大崎航の見本誌。サイン入りでもらっちゃったよ」
蒼(激レア)
蒼、本を開く。
◯同、部屋(夜)
蒼M「ご飯を食べるのも忘れて、夢中で読んでしまった」
蒼(やっぱ面白いなあ)
蒼M「余韻が、すごい。
読み終わってもなお、大崎航ワールドに浸っている」
蒼(わたしもこんな素敵な作品が書けたらなあ)
蒼、プロットノートを開く。
蒼M「いい作品に触れたあとは自分の作品がつまらなく思えて仕方がない。
自信を持てたものでさえ、書き出しのセンスないなとか、個性豊かなキャラも案外フツウだなとか。文章力の低さに凹んだりする。
それでもやっぱり自分の作品は好きで、面白くて、それを読んで少しでもなにか感じてくれた人たちの存在に支えられて、まだまだ書きたいって思える」
蒼(木崎くんは十六でデビューしたんだもんなあ)
蒼M「学生時代、国語の勉強にもっと真面目に取り組んでおけばよかった、とか。本をたくさん読んでおけば今よりは語彙力あったのに、とか。後悔することは多いが考えても仕方がないので、今からでもスキルアップできればと、多くの作品に触れるようにしている」
本棚、本がズラリと並んでいる。
蒼(って、お礼言ってない!!)
◯蒼マンション、キッチン(夜)
蒼、鍋(蓋をし、中には水)を火にかける。
(メッセージ)
蒼【本、届いたよ。ありがとう!】
蒼M「木崎くんに、お礼のメッセージと一緒に感想を送った。
今すぐに伝えたかったからだ」
蒼(メッセなら電話と違って多忙な木崎くんでも合間に確認できるよね)
蒼、携帯を置く。(湯が沸騰したあと)塩をふりかけ、パスタを入れる。
火をとめ蓋をする。
(通知音)
蒼(木崎くんかな? 返事はやい)
蒼、携帯を手に取る。
(メッセージ)
木崎【なげーよ】
蒼(感想送りすぎた……?)
(メッセージ)
木崎【つーか、読むのはや】
蒼【今読まずしていつ読むの】
木崎【暇人か】
蒼【読者に向かってなんてこと言うの】
木崎【家?】
蒼【うん。仕事から帰ってきて夢中で読んで、今に至る】
木崎【メシは】
蒼【作ってるよ。パ】
蒼「しまった!!」
蒼、慌ててパスタをザルにあげる。
(メッセージ)
木崎【パ?】
蒼【ごめん変なとこで切れた。パスタ茹でてたんだけど茹ですぎちゃって】
木崎【バカだな】
蒼(バカとはなんだ)
蒼【セーフだったけどね。火を止めてたからからかな】
木崎【とめて茹でられんの?】
蒼【うん。一分くらい茹でたら止めて、時間通り放置したらアルデンテに茹で上がる】
木崎【マジか】
蒼【ガス代の節約になるし吹きこぼれないしオススメ】
木崎【意外にそういうこと知ってるんだな】
蒼(意外ってなに)
蒼M「まあ、この知恵は先輩から教えてもらったものなんだけど。
先輩は家事が得意な人だった。洗濯物だってわたしより素早く綺麗に干したし、部屋も常に整理整頓されていたんだよね」
蒼(……なに思い出してるんだか)
(メッセージ)
木崎【一人?】
蒼【うん】
木崎【俺の分も作ってよ】
蒼M「え?」
(メッセージ)
木崎【本送ってやったろ】
蒼【今どこ?】
木崎【タクの中】
蒼(そっか、移動中だから返事する余裕あるんだね。仕事帰りかな。作ってって、本気? いや、木崎くんのことだ。きっと適当に言ってるだけだろう)
(メッセージ)
木崎【つか。チケット見た?】
蒼(チケット? なんのこと?)
蒼【チケット?】
木崎【本と一緒に入れてたろ】
蒼「え、知らない」
蒼、封筒の中をチェック。中からチケットを取り出す。
(メッセージ)
木崎【都合よければ来いよ】
蒼(そっか。木崎くんの作品の映画、ついに試写会やるんだ)
(メッセージ)
木崎【俺、舞台挨拶で登壇するんだけど。知り合い呼んでいいってさ】
蒼(じゃあこれ、めちゃくちゃいい席なんじゃ?)
(メッセージ)
蒼【いく! なんとしても】
木崎【まあ好きにしてくれ】
蒼【晴れ舞台みにいくね】
木崎【オマエは俺のオカンか】
蒼(その日は仕事入れられないな。楽しみ)
(メッセージ)
木崎【着いた】
蒼(?)
(メッセージ)
木崎【あけて】
蒼「え?」
◯同、玄関(夜)
木崎「よ」
蒼「…………」
蒼M「え?」
(第八話 おわり)
◯スーパー、試食コーナー
源蔵「蒼ちゃん、うちの孫の嫁にならん?」
源蔵(げんぞう・57)、青汁を飲む。
蒼M「源蔵さんは、ここの常連客。
やたらと絡んでくるフレンドリーな関西出身のおじさんだ」
蒼「源蔵さんのお孫さん、おいくつでしたっけ」
源蔵「中三や。ワシに似てシャイな子でな。ガールフレンドの一人もおらん」
蒼(アンタのどこがシャイなんだ)
蒼「中学生を結婚相手にすすめるって、どうなんですかね」
源蔵「なかなかの男前やけど。アカン?」
蒼「むしろお孫さんが嫌がりますよね」
源蔵「蒼ちゃんみたいなべっぴんさんやったら喜ぶで。アイツにはな、姉さん女房が似合っとるわ」
蒼(ここは結婚相談所ですか?)
蒼M「と、このように源蔵さんはツッコミどころ満載である」
源蔵「これ旨いなあ」
蒼「蜂蜜入りなので飲みやすいんですよ。お孫さんにも美味しくいただいてもらえるのではないかと。受験期の夜食と共にいかがですか」
源蔵「孫がダメならワシの嫁にこんか?」
蒼「帰って奥さんに叱られますよ」
源蔵「おらんおらん。愛想つかして逃げてったわ」
蒼「……それでも愛しておられるんですね」
源蔵「え?」
蒼、視線を源蔵の左手(薬指の結婚指輪)に向ける。
蒼M「わたしは、父が結婚指輪をしているところを見たことがない」
源蔵「蒼ちゃんには、かなわんなあ。女房なあ。先に逝ってもうてん」
蒼、目を見開く。
源蔵「かわいそうに。病気でな」
蒼「そうだったんですか。すみません、わたし余計なことを――」
源蔵「ええねんええねん。いつも余計なこと言って蒼ちゃんを困らせてんのはワシや」
蒼M「自覚あったんかい」
源蔵「それに、しょっちゅう叱られとったんは事実やで。ワシ、プレイボールやから」
蒼「それを言うならプレイボーイです。シャイボーイ設定さっそく覆しましたね」
源蔵「それでも最期までラブラブやったけどな」
蒼M「源蔵さんは奥さんを亡くしていなければ、しわくちゃのおじいちゃんとおばあちゃんになっても一緒にいたのだろうか。
だとしたら本当に凄いことだと思う。
わたしには、やっぱり誰かとのそんな未来は想像できない。
桂さんと、離れたくないと思う。
それでも五年、十年先のことが考えられない。なにも見えないのだ」
蒼「心配しなくても、そのうちお孫さんには恋人の一人や二人現れますよ」
源蔵「二人おったらあかんがな」
蒼「あなたがそれを言いますか。お若い頃の通り名は“女泣かせのゲン”だったんでしょ?」
源蔵「よう覚えとるなあ。蒼ちゃん記憶力ええわ」
蒼(というよりは、その武勇伝なら三回は聞いたからな)
源蔵「孫は奥手やねん。器用なことでけへんわ」
蒼「わかりませんよ? なにせ源蔵さんのお孫さんですからね。そのうちそっくりになるかもしれません」
源蔵「しょうもない男になるって言っとる?」
蒼「いいえ。チャラけているようで愛する人に一途な紳士に」
源蔵「はっはっ。こりゃあ一本とられた。ほんならもらっていくわ。三箱ほど」
蒼「お買い上げありがとうございます」
源蔵「ほんま蒼ちゃんには元気もらうわ」
蒼「それはよかったです」
源蔵「まあ考えといてーな。ワシの嫁になるハナシ」
蒼「はいはい」
蒼(する気ないクセに)
蒼、呆れ笑いで源蔵の背中を見送る。
蒼M「いつも通りの日常が戻ってきた。
そうだ、これこそが、わたしの日常だ。
試食販売の傍ら人間観察をし、創作のヒントを得る。
苦手な環境下で敢えて派遣社員として働こうと思ったのはそれが一番の理由だ。
非常にマイペースに働け、それなりに人とのコミュニケーションもはかれ(ガッツリ接客するのは苦手だ)、安定した収入が入る。
桂恭一の存在は。あの男との出逢いは、イレギュラーにも程がある。
誰があんな強烈な客くると思う?
しかしまあ。
あの男と過ごした夜は――」
蒼(スゴかった……!!)
蒼、顔を手で覆って赤面。
蒼M「やっぱり桂さんは紳士の仮面を被ったオオカミだった。骨抜きにされた」
× × ×
(フラッシュ)
朝、蒼の部屋。
蒼、ベッドで目覚める(裸)。
そこに桂の姿はない。
ダイニングの机の上に置かれた桂の名刺。
【代表取締役社長 桂 恭一】
× × ×
蒼M「きっと、わたしに伝えてあった時刻より、はやくに家を出たのだろう。
ダイニングテーブルの上に置いていた鍵を使い外から施錠したようで、玄関のポストに入れてあった」
蒼(まさかのトップ。いや、偉い人だとは思っていたけど、あの若さで社長とは……。っていうか起こしてくれればよかったのに)
蒼M「いってらっしゃいって、言ってあげたかった。見送ればきっと喜んでくれただろうから」
蒼(桂さんが来ないスーパーは平和そのものだな)
蒼M「離れた傍から会いたくなった。
恋愛から遠ざかったわたしが、また、こんな気持ちを抱くなんて」
◯蒼マンション、エントランス(夕方)
蒼(けっこう売れた。よかった)
蒼、ポストから手紙を取り出す。
蒼(あれ。これは……)
(定形外郵便)
送り主、木崎航
蒼M「サイン本!!」
蒼(キターーーッ)
蒼「木崎くん、もう送ってくれたんだ」
◯同、ダイニング(夕方)
蒼、封筒から単行本を取り出す。
蒼(待って。これ。まだ発売されてないやつ……!?)
蒼「大崎航の見本誌。サイン入りでもらっちゃったよ」
蒼(激レア)
蒼、本を開く。
◯同、部屋(夜)
蒼M「ご飯を食べるのも忘れて、夢中で読んでしまった」
蒼(やっぱ面白いなあ)
蒼M「余韻が、すごい。
読み終わってもなお、大崎航ワールドに浸っている」
蒼(わたしもこんな素敵な作品が書けたらなあ)
蒼、プロットノートを開く。
蒼M「いい作品に触れたあとは自分の作品がつまらなく思えて仕方がない。
自信を持てたものでさえ、書き出しのセンスないなとか、個性豊かなキャラも案外フツウだなとか。文章力の低さに凹んだりする。
それでもやっぱり自分の作品は好きで、面白くて、それを読んで少しでもなにか感じてくれた人たちの存在に支えられて、まだまだ書きたいって思える」
蒼(木崎くんは十六でデビューしたんだもんなあ)
蒼M「学生時代、国語の勉強にもっと真面目に取り組んでおけばよかった、とか。本をたくさん読んでおけば今よりは語彙力あったのに、とか。後悔することは多いが考えても仕方がないので、今からでもスキルアップできればと、多くの作品に触れるようにしている」
本棚、本がズラリと並んでいる。
蒼(って、お礼言ってない!!)
◯蒼マンション、キッチン(夜)
蒼、鍋(蓋をし、中には水)を火にかける。
(メッセージ)
蒼【本、届いたよ。ありがとう!】
蒼M「木崎くんに、お礼のメッセージと一緒に感想を送った。
今すぐに伝えたかったからだ」
蒼(メッセなら電話と違って多忙な木崎くんでも合間に確認できるよね)
蒼、携帯を置く。(湯が沸騰したあと)塩をふりかけ、パスタを入れる。
火をとめ蓋をする。
(通知音)
蒼(木崎くんかな? 返事はやい)
蒼、携帯を手に取る。
(メッセージ)
木崎【なげーよ】
蒼(感想送りすぎた……?)
(メッセージ)
木崎【つーか、読むのはや】
蒼【今読まずしていつ読むの】
木崎【暇人か】
蒼【読者に向かってなんてこと言うの】
木崎【家?】
蒼【うん。仕事から帰ってきて夢中で読んで、今に至る】
木崎【メシは】
蒼【作ってるよ。パ】
蒼「しまった!!」
蒼、慌ててパスタをザルにあげる。
(メッセージ)
木崎【パ?】
蒼【ごめん変なとこで切れた。パスタ茹でてたんだけど茹ですぎちゃって】
木崎【バカだな】
蒼(バカとはなんだ)
蒼【セーフだったけどね。火を止めてたからからかな】
木崎【とめて茹でられんの?】
蒼【うん。一分くらい茹でたら止めて、時間通り放置したらアルデンテに茹で上がる】
木崎【マジか】
蒼【ガス代の節約になるし吹きこぼれないしオススメ】
木崎【意外にそういうこと知ってるんだな】
蒼(意外ってなに)
蒼M「まあ、この知恵は先輩から教えてもらったものなんだけど。
先輩は家事が得意な人だった。洗濯物だってわたしより素早く綺麗に干したし、部屋も常に整理整頓されていたんだよね」
蒼(……なに思い出してるんだか)
(メッセージ)
木崎【一人?】
蒼【うん】
木崎【俺の分も作ってよ】
蒼M「え?」
(メッセージ)
木崎【本送ってやったろ】
蒼【今どこ?】
木崎【タクの中】
蒼(そっか、移動中だから返事する余裕あるんだね。仕事帰りかな。作ってって、本気? いや、木崎くんのことだ。きっと適当に言ってるだけだろう)
(メッセージ)
木崎【つか。チケット見た?】
蒼(チケット? なんのこと?)
蒼【チケット?】
木崎【本と一緒に入れてたろ】
蒼「え、知らない」
蒼、封筒の中をチェック。中からチケットを取り出す。
(メッセージ)
木崎【都合よければ来いよ】
蒼(そっか。木崎くんの作品の映画、ついに試写会やるんだ)
(メッセージ)
木崎【俺、舞台挨拶で登壇するんだけど。知り合い呼んでいいってさ】
蒼(じゃあこれ、めちゃくちゃいい席なんじゃ?)
(メッセージ)
蒼【いく! なんとしても】
木崎【まあ好きにしてくれ】
蒼【晴れ舞台みにいくね】
木崎【オマエは俺のオカンか】
蒼(その日は仕事入れられないな。楽しみ)
(メッセージ)
木崎【着いた】
蒼(?)
(メッセージ)
木崎【あけて】
蒼「え?」
◯同、玄関(夜)
木崎「よ」
蒼「…………」
蒼M「え?」
(第八話 おわり)