私と結婚しませんか
#13 抉ってくる
第十三話『抉ってくる』


◯蒼、ダイニング(夜)

   桂と木崎、テーブルを挟み向かい合って座る。
   蒼、二人を遠巻きに眺める。

蒼M「シュール!!」

蒼(なんだこの絵図は)

桂「うちの蒼がお世話になっております」

蒼M「旦那目線やめて」

木崎「世話なんてしてませんよ。セクハラして追い返されたとこっすから」

蒼M「妙な言い方やめて木崎くん。追い返してないし」

   蒼、桂の隣に座る。

木崎「なんすか。この。三者面談みたいなのは」

蒼M「お父さん!!」

桂「サインをいただけますか」
木崎「は?」
桂「こちらに」

   桂、鞄から色紙と油性マーカーを取り出し木崎に差し出す。

蒼M「用意周到!!」

   木崎、苦笑いで受け取りサインする。

蒼(してくれるんだ……)

蒼M「っていうか。桂さん、木崎くんが何者かわかって頼んでるの?」

   木崎、色紙と油性マーカーを桂に渡す。
   桂、一度色紙に視線を向けてから木崎を見る。

桂「ありがとうございます。大崎先生」
木崎「……! 吉岡から聞きましたか。俺のこと」

蒼(ちがう。わたしは、話していない)

桂「いえいえ。ここには一度お邪魔したことがありましてね。本棚の目につくところに、同じ著者の本がズラリと並んでいるのが少々気になりまして」
木崎「!」
桂「それらは、きちんと発売順に並べられていて。単行本と文庫本で出版されたものは同タイトルが二冊ずつあり」

蒼(うちの中の様子を見える限りは把握していると言っていたが)

桂「大崎航は別格だということが一目瞭然でした。他に既刊すべて買い揃えた作家は見受けられませんでしたし、図書館のラベルがついた本も置かれていましたから。明らかに扱いが違ったのです」

蒼(記憶力の鬼というか。どこまで見てるんだよ)

桂「木崎航の『疵』を手に取ったとき。何度も繰り返し読んでいるのだろうなと感じました。吉岡さんは大崎先生の熱心なファンだ。となると電話でサインをもらうと言っていたのは大崎先生ではないかと考えたのです」
木崎「……俺にサインさせたのは。サインを見てその憶測を確信に変えるためか」
桂「家に飾らせていただきます」
木崎「俺の本読んだことあるんすか」
桂「勿論ですよ」
木崎「勿論?」
桂「吉岡さんの好きなものが、どんなものか。気になるじゃないですか」
木崎「……それで読んだのかよ」
桂「取り急ぎ電子書籍で既刊すべて購入いたしました。ほら、この通り」

   桂、タブレットを見せる。
   (タブレット画面)
   電子書籍ライブラリに大崎航の本がズラリと並ぶ。

木崎「……そりゃどうも」
蒼(いつの間に)

桂「デビュー作。とても面白かったです」
木崎「あっそ」

蒼M「態度わる」

桂「本当に。面白かったですよ」
木崎「…………」
桂「十六歳の少年が描いた。フレッシュな狂気が」
蒼(狂気にフレッシュって言葉を合わせる人初めて見たけど言いたいことは凄くわかる)

   木崎、顔をしかめる。

蒼M「桂さんは、嘘をついていない。
 本当に、『疵』を読んだんだ。読んで感想を述べている。
 まったく。忙しいのに、いつの間に……」

木崎「……アンタはホームズですか」
桂「はは。ちょっとした好奇心と、ただの勘ですよ。シャーロック・ホームズのような桁外れの観察眼と推理力は私にはありません。ちょっとばかり記憶力と洞察力があるだけで――それも吉岡さんに関すること限定で」

蒼M「木崎くんに気持ちわるいこと言わないでくれ」

桂「私が大崎航の正体を知ったのは。マズかったですか?」
木崎「別にかまいませんよ。どうせ、もうじき顔出ししますからね」
桂「情報解禁ですか。どうしてミステリアスな作家の君が。素性を明かそうと思ったんです?」
蒼「あっ、それ。わたしも気になる」

   蒼、木崎を見る。
   木崎、目を逸らす。

木崎「黙秘権は」

   桂、目を細め、微笑む。

桂「認めましょう」

蒼(言えないんだ。でも。誤魔化しも、しないんだ……?)

木崎「下ですれ違ったとき。俺がこの部屋から出てきたことを見抜いて声をかけきましたよね」

蒼(そうなの?)

桂「それはですね、先生。エレベーターのランプが、三階から降りてきましたから」
木崎「それだけでは俺が吉岡の部屋にいたとはわからないはずでは」
桂「もちろん、わかりませんよ」

   木崎、目を見開く。

木崎「……ハッタリか」
桂「大正解です」
木崎「詐欺師みたいな男だな」
桂「そうですねえ。吉岡さんを手に入れるためなら、詐欺師にだってなっちゃいますね」

桂「さて。乾杯しましょう」

   桂、紙袋を蒼に渡す。中にはワイン。

蒼「はあ……」
木崎「俺は帰りますよ」
桂「お急ぎですか?」
木崎「邪魔者だろ。どう考えても」
桂「いいえ。とんでもない。君は、吉岡さんの大切なご友人です」

蒼(桂さん……)

蒼「あの、桂さん。うちにはワイン飲むようなグラスがないんですけど」
桂「勿論、準備してきましたよ。グラス三つとおつまみと。それから念の為にコルク抜きも」

   桂、もうひとつ紙袋を渡す。

蒼と木崎M「(青ざめた顔)もちろんの意味がわからない!!」

蒼(それで荷物多かったのか )

   テーブルに並んだワイングラス三つ、中には赤黒いワイン。中央にはチーズ。

桂「乾杯」
蒼「か、乾杯!」
木崎「……乾杯」

   三人、ワイングラスに口をつける。

蒼「……甘い」
桂「気に入ってくれました?」
蒼「はい。なんだか凄く飲みやすくて、ジュースみたいで。美味しいです」
桂「それでもアルコール度数は低くはないので。あまり飲むと明日の朝に残りますよ」
蒼「なるほど」
蒼(ジュースみたいなカクテルもアルコール度数が意外に高いっていうもんなあ)
桂「ところで先生」

   桂、木崎を鋭い目で捉える。

木崎「先生はやめて下さい」
桂「では、木崎くん。吉岡さんの手料理は。美味しかったですか」
蒼「!?」
木崎「……まあ。それなりに」
蒼「なんで一緒に食べたのわかったんです?」
桂「いえね。先程冷蔵庫をあけた際に、減っていた食材と。あとは洗い物を見て、二人分のなにかが作られ食べられた。それはおそらくはナポリタンではないかと推測してみました」

蒼M「こわい!!」

木崎「俺も聞いていいっすか」
桂「どうぞ」
木崎「どーしてコイツなんすか」

   蒼、目を見開く。

木崎「アンタなら幾らでも相手いるでしょう?」

蒼M「わたしが聞きにくいことあっさり聞きやがった!!」

   ×  ×  ×
   (フラッシュ)
   小学校、教室。休み時間。

   木崎、蒼(真剣な表情)が絵を描いている様子を見つめる。
   ×  ×  ×

木崎「吉岡は、小学生のとき。大人しく教室の隅で絵を描いているような女の子で。それを俺たちは、バカにしてたんです」
桂「ほう。絵ですか。真っ白で大きなキャンバスかなにかに?」

蒼M「どこの美術部員だよわたしは。いや美術部員でもさすがに教室にキャンバス運んでこないのでは」

木崎「それ、ボケですか」
桂「はは。続けて下さい」
蒼(面白くないボケやめて)

蒼M「……って、待てよ?」

蒼「覚えてるんじゃん!」

   蒼、木崎を睨む。

木崎「覚えてるとも」

   木崎、意地悪に笑う。

蒼(知らないって言ったクセに。とぼけたな?)

木崎「自分は最強だと思ってました。テストは満点とるのが当たり前で。足も一番速かった。女子からもらうバレンタインチョコの数も、断トツで多かったりして。みんな俺の周りに集まってきて」

蒼(怖いものナシって感じだったね)

木崎「でも。吉岡だけは俺を認めなかった」

蒼M「え?」

   桂、ワイン片手に静かに微笑む。

木崎「吉岡は他のやつらみたいに俺に寄ってこなかった。むしろ軽蔑した目を俺に向けてきた」
蒼「それは木崎くんが酷いこと言ってきたから!……苦手だったんだよ。でも、軽蔑なんてしたことない」
木崎「はあ? よく言うよ。見てたろ。蔑んだ目で」
蒼「だからそれは、嫌がらせするからでしょ。女の子と一緒になってさ。キモいとか言って笑うからだよ。それで木崎くんにときめいてたら、わたし、ヘンタイでしょ」
木崎「……そんなこと言ったか?」
蒼「またとぼけてるし」
木崎「いや、それは。覚えてねえわ」
蒼「ふーん。イジメっ子の主張ってそんなもんだよね」

   蒼、ワインをグイっと飲み干す。
   桂、ワインを蒼に注ぐ。

蒼「あ、ありがとうございます」
桂「いえいえ。気に入ってもらえたなら良かったです」
木崎「それはだな、吉岡。弁明させてもらうと」
蒼「言ったよね!?」

   木崎、観念したように答える。

木崎「……言った」
蒼「ほーら」
木崎「でも。思ってなかった」
蒼(?)
木崎「キモいとか。暗えとか。本当は、そんなこと少しも思ってなかった」
蒼「信じられない」
木崎「今更謝っても遅いよな。だけど。ごめん」
蒼(……ほんと今更すぎる)
木崎「小さな世界で王様気取ってた俺の目に。唯一色がついて見えたのが。吉岡だった」

蒼M「……え?」

木崎「オマエは俺に人生変えられたとか思ってやがるけどな。こっちの台詞なんだよ」
蒼「……なに、言ってるの」
木崎「吉岡は他人に流されるような女じゃなかった。誰がなんと言おうと、ひたむきに絵を描いてた。オマエと。それから、オマエの世界を持っていたんだ。そんな女を見たのは吉岡が初めてだった」

蒼M「木崎くんがわたしに感化されていた……?」

蒼「そっ……それで悪口言うかなあ?」
木崎「心底ムカついた。俺を見ないオマエに」

蒼M「……!!」

木崎「俺が体育大会のリレーで優勝しても。どうでも良さそうにしてた」
蒼「見てたよ」
木崎「どこがだよ」
蒼「凄い人だなって。思ってた」
木崎「ほんとかよ」
蒼「木崎くんってさ。他人に厳しい分、自分にもすごく厳しいでしょ」
木崎「どーだかな」
蒼「そうだよ。だって木崎くんは、努力家だもん」

   木崎、目を見開く。
   桂、穏やかにワインを飲む。

蒼「知ってるよ。バスケの練習、夜遅くにしてたこと」
木崎「……はあ?」
蒼「才能、あんだると思う。でも。それだけじゃないよね、木崎くんは。努力を積み重ねられる人なんだ。だから夢を掴み取れた」
木崎「ンなこと初めて言われたわ。周りは俺のこと天才ってもてはやして来るからな」

   木崎、肩をすくめ薄笑い。

蒼「それってさ。見せてないからじゃないの」
木崎「なにを」
蒼「頑張ってるとこ」

   木崎、笑顔が消える。

蒼「そういうの、誰でもできるものじゃないから凄いと思う。でもね。一人で抱えるのって。無敵キャラって、疲れない? いくら強い心を持っていても。プレッシャーに押しつぶされそうになったりしない?」

   木崎、目を逸らす。

蒼「違ったらごめん。でも、そういうので誰かに甘えたいのかなって、ちょっと思った。女の子から放っておかれない木崎くんが、敢えてわたしと会う時間作ったくらいには。誰にも言えない苦悩……とか。抱えてるのかなって。それを無理に話してとは言わない。だけど憂さ晴らしなら、とことん付き合いたくなって。そう言ったし。今も、そう思うよ。ほら。こんなわたしでも、お酒の相手くらいになら全然なれるでしょ?」

   木崎、鼻で笑う。

木崎「……抉ってくるよな。ほんと」

蒼M「えぐってくる?」

   桂、満足そうに微笑む。

木崎「茹でだこみたいな顔して話されても全然心に響かねーっつーの」
蒼「茹でだこ?」
蒼(そういえば。身体がすごく。ポカポカしてきたぞ。これは、調子に乗って、飲みすぎた感が……)

桂「どうぞ」

   桂、蒼に水の入ったグラスを渡す。

蒼「ありがとうございます」

   蒼、水を飲み干す。机に顔を突っ伏し眠る。
   木崎、呆れ顔。

桂「おやおや。こんなところに可愛い眠り姫が」

   桂、蒼を抱きかかえベッドに連れて行く。
   戻ってくると木崎とサシで飲み始める。

木崎「聞いてたイメージと全く違うんすけど」
桂「ほう。私の話を吉岡さんが、君に? 嬉しいです」

   桂、上品にワインを飲む。

木崎(もっとガキっぽいやつかと思ってたんだけどな)
木崎「正直、勝ち目あると思いました。俺これからどんどん有名になりますし」
桂「そうですか」
木崎「吉岡は、押しに弱いところがある。そんでもって世話焼きだ。今はアンタとの関係に熱を上げているが、冷めてきたらそのへん利用して漬け込んでやろうと思ってた」
桂「勝負する前から敗北宣言ですか」

   木崎、ワインを飲み干す。

木崎「アンタ何者だ」
桂「私ですか? 私は――吉岡さんのことを愛している、ただの男ですよ。君と同じく」

   桂、木崎にワインを注ぐ。

木崎「なんで吉岡なんだよ」
桂「自分には吉岡さんしかいないのに、とでも言いたげですねえ。さては吉岡さんが初恋ですか」
木崎「見透かした態度が気に食わねえ」
桂「わかりますよ。吉岡さんは、魅力的です。私だって彼女が初恋です」
木崎「本人は自己評価低いけどな……って、初恋?」
桂「そこもまた可愛いじゃないですか」
木崎「アンタ今の年まで女いなかったとか言わねーよな」
桂「いませんでしたよ?」
木崎「……いくつ」
桂「三十です」
木崎「さすがに吉岡が初めての相手じゃねえよな」
桂「おや。それはなんのお相手ですか」
木崎「……なんでもねえよ」

桂「私が今日伺ったのはですねえ」
木崎「吉岡に手を出すなって言いたいんだろ?」
桂「いいえ」
木崎「は?」
桂「吉岡さんと。どうかこれからも仲良くしてあげて欲しいのです」
木崎「は?」
桂「若くして富と名誉を得た君が。多くの女性を掌の上で転がしてきたであろう君が。吉岡さんの前ではヘタレで空回り」
木崎「アンタ俺のことめちゃくちゃ嫌いだろう」
桂「はは。嫌いじゃないです。今すぐナポリタン吐き出せなんて思っていませんよ」
木崎(ぜってえ思ってる……!!)
木崎「死んでも吐いてやるか」

桂「私はですね、木崎くん。君が初恋をこじらせるのは大いに構いませんが。挙げ句の果てに自暴自棄になって、吉岡さんを傷つけてしまわないか危惧しているのです」
木崎「……吉岡に正面からアプローチしてもアンタは怒らないってのか」
桂「私が牙を剥くことがあるとすれば。吉岡さんを君に奪われることでなく。君が吉岡さんを悲しませることだいうことを、頭の片隅にでも置いておいて下さい」
木崎「随分と余裕だな」
桂「余裕? はは。そんなもの、ありませんよ」
木崎「なんだと?」
桂「死ぬほど君に嫉妬していますよ」

    桂、変わらず穏やかなまま。

木崎「俺が吉岡の大好きな大崎航だからか」
桂「いいえ。君が、私の知らない吉岡さんを知っている男だからです」

   木崎、顔を引きつらせる。

木崎「……手に入らないなら、いっそ。壊してしまえばいいと思った」
桂「ほう」
木崎「嫌がろうが強引に抱いてやろうかと考えた。最初は抵抗されても悦ばせる自信があった」
桂「だが。思いとどまったのですね」
木崎「壊せなかった」
桂「…………」
木崎「惚れた俺の負けってことだ」

   桂、穏やかに木崎を見つめる。

木崎「気持ちを伝えないのですか」
桂「言えたら苦労しねーよ。何年こじらせたと思ってる」
桂「言わないから悶々とするのでは?」
木崎「……他の女なら。会ったその日に抱けるのに。吉岡には。連絡先ひとつ素直に聞けねえんだ。再会できたときなんてさ。自分の唯一誇れることをアピールするだけで精一杯だった。そんでもって今がこの有様だ。笑いたきゃ笑え」
桂「笑えません」

   木崎、目を見開く。

桂「バカになるのがカッコ悪いと思っているうちは。吉岡さんは手に入れられませんよ」

   木崎、観念したように笑う。

木崎「アンタのこと。気持ちわるいのに拒絶できないってノロケてましたよ、アイツ」
桂「嬉しいです」
木崎(ドエムなのか……?)
木崎「“好き”と一度認めてしまったら。負けな気がするんだと」

   桂、目を見開く。

木崎「このまえ駅でたまたま吉岡に会ってさ。アンタとのデートに着る服とか。両手いっぱいに買いこんでさ。バカみたいに浮かれてやんの。あの時の吉岡は。一年半前よりずっと綺麗になってた。悔しいけど俺の完敗だ」

   木崎、桂に目を向ける。
   桂、硬直している。
   
木崎「おい。どうした?」
桂「吉岡さんが。私を。好きと?」
木崎「は?」
桂「……吉岡さんが。私を。……好きと」
木崎「それがなんだよ」

   桂、赤面。

桂「(うろたえながら)っ、そうですか。吉岡さんが。……私を」

   桂、心臓を抑える。

木崎「たかが彼女から好きって言われたくらいでなんだよその反応。中学生か」
桂「言われてませんから」
木崎「は?」
桂「それに吉岡さんは。私の恋人ではありません」
木崎「(真顔)なに言って……」
桂「私は吉岡さんに。恋人と認めてもらえていません。将来の約束も、したくないと」
木崎(なんだそれ。どう見ても両想いだろ)
木崎「それでアンタは納得してるっていうのかよ」
桂「ええ」
木崎「どうして」

   桂、木崎をまっすぐに見つめる。

桂「一緒にいられて幸せですから」


◯同、部屋(朝)

   蒼、目が覚める。

桂「おはようございます」

   桂、スーツ姿でベッド脇に立つ。

蒼「……あれ、木崎くんは?」
桂「帰りましたよ」
蒼(記憶がない!!)
蒼「って、帰るんですか?」
桂「はい。行ってきます」

   蒼、身を起こす。


◯同、玄関(朝)

蒼(よかった。今日はお見送りできる)
桂「吉岡さん」
蒼「はい」

   蒼と桂、見つめ合う。

桂「明日で世界が滅びるなら。私は最後の瞬間まで吉岡さんのことを想っていたいです」
蒼「(赤面)……いきなりおかしなこと言うのやめてくれません?」
桂「思ったことは言いたくなる性質(たち)なので」
蒼(まったく……)
蒼「木崎くん、なんか言ってました?」
桂「いいえ」
蒼(あとでメッセしておこう。先にダウンしてごめんって)

桂「木崎くんは、私の知らない吉岡さんを知っている。羨ましいです」

蒼M「果たしてそうだろうか。
 わたしは木崎くんより桂さんの方が既にわたしのことを知っている気がしてならない」

蒼「……小学校のときのアルバム見ます?」
桂「見たいです。アルバムと言わず文集も。入学式から卒業式までの写真もすべて。複写したい」
蒼「複写はやめてください」
桂「この家にあるんですか?」
蒼「そういうのは実家ですね」
桂「さっそく取り寄せたい。学生時代の制服も一緒に」
蒼「取り寄せるって……。制服どうするんです?」
桂「勿論着ていただくのですよ。制服デートしましょう」
蒼「誰がするか」

蒼M「制服デートって現役JKが放課後等にすることだろう? 社会人になってからはコスプレになるからな?」

蒼「考えただけで興奮します。制服姿の蒼さんとの制服プレ――」
蒼「もう黙ってください」
蒼(黙ればイケメンなのに残念すぎる!!)
桂「好きが溢れて黙れません」
蒼「……っ」
桂「ふふ。今朝の吉岡さんも一段とかわいいですね」

   桂、蒼の頬にキスをする。

蒼(こ、これぞ。いってきますのチュウ……)

蒼M「そういえば」

   ×  ×  ×
   (フラッシュ)
   蒼マンション、昨夜。

木崎「どーしてコイツなんすか」
木崎「アンタなら幾らでも相手いるでしょう?」
   ×  ×  ×

蒼M「あの返事聞いたっけ。
 ……聞いてないよね?」

桂「吉岡さん」
蒼「は、はい!?」

   蒼と桂、見つめ合う。

蒼(相変わらずクッソ美形だな。
 なんだろう。どうせなら。
 ほっぺじゃなく……唇に欲しかった。
 なーんて)

桂「私にもナポリタン作って下さい」
蒼「そんなものでよければ。いくらでも」

蒼M「聞きたい」

蒼「……教えてくださいよ」
桂「はい。何をですか」
蒼「わたしの好きなところ」
桂「困りましたねえ」
蒼(?)
桂「語りだしたら長くなるので――」

   桂、蒼に顔を近づける。

蒼(……!)

   桂、蒼にキス。
   蒼、赤面。

桂「大崎先生の言葉をお借りすると。抉ってくるところ、ですね」
蒼(?)
桂「木崎くんとは。こういうことしましたか」
蒼(はあ?)
蒼「してませんよ」
桂「その予定は」
蒼「するわけないでしょ」
桂「なぜ」
蒼「そりゃあ、友達……」

   桂、蒼にキスする。

桂「このキスは。特別なんですね」

   桂、蒼にキスする。

蒼M「何回するの」

桂「蒼さん」

   桂、蒼にキスする。

蒼M「返事させてよ」
蒼(またふいに名前で呼ぶ)

   桂、蒼にキスする。
   蒼、キスに応える。

蒼M「ヤバい。力、抜け……」

桂「一緒に住みませんか」
蒼「…………」

   蒼と桂、見つめ合う。

蒼M「え?」

桂「住みましょうよ」
蒼「…………」

   蒼、呆然とする。
   桂、腕時計を確認する。

桂「おっと。そろそろ出なければマズいので。行ってきます」

   扉、閉まる。

蒼M「えぇええ!?」


(第十三話 おわり)
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