私と結婚しませんか
#15 寂しい
第十五話『寂しい』
◯都内シアター、劇場内(夕方)
カメラマン多数。
蒼、挙動不審。
蒼(報道陣多い)
(看板)
『初恋』舞台挨拶付き完成披露試写会
蒼、席につき開始を待つ。
男「知ってるか。大崎航が実は女って説」
女「えー、あたしはイケメン説を推す」
男「イケメンなら顔出してんだろ」
後方から男女の声が聞こえてくる。
蒼、ムスッとする。
蒼(木崎くんは正真正銘のイケメンですよーだ)
蒼M「大崎航の実写映画が、まもなく上映される。
それだけで興奮モノだが――」
司会『お待たせ致しました』
蒼M「上映前のキャスト、スタッフによる舞台挨拶で木崎くんが人気俳優らと違和感なく、堂々と並んでいるのを見て。
滾った」
蒼(……凄いなあ)
◯同、出入口付近(夜)
試写会、終わる。
ぞろぞろと人が劇場から出ていく。
蒼(余韻すごい。この感動を誰かと分かち合いたい。まずは木崎くんにメッセ送って。ネットにネタバレしないようにレポートあげて。それから……)
蒼、流れに乗って歩く。
女「やばかったね!?」
女「SNSフォローしちゃった」
蒼(!)
女「あたしもする〜! サイン会とかやって欲しい」
女「あれば絶対行くのに。独身かな?」
女「指輪してなかったけど彼女いそうだよね」
女「番宣でテレビとかいっぱい出て欲しい」
女「裏口から出てくるんじゃない!?」
女「え、行ってみよー!!」
蒼(おいおい。木崎くんはアイドルか)
男「顔で仕事とってきたんじゃねーの」
男「才能あるやつはいいよなー。俺も文章力あるイケメンに転生して汗水流さずに生きてえ」
蒼(は?)
男「ゴーストライターいたりして」
蒼(……なにそれ)
男「あんなチャラチャラしてそうなやつが大崎航って言われても信用なんねーわ」
蒼(なんでみんな映画の感想言ってないの? もっとあるでしょ。素晴らしかったでしょ)
蒼M「腹が立つ」
蒼(反論してやりたいけど。ここは冷静に……)
坂元「僕は憧れるけどな。ああいう男」
蒼(!)
坂元「そうやって外見で判断されるのが嫌で顔隠してたんじゃない?」
男「なんだよテメェ」
蒼、すぐ近くから穏やかな男の声と、荒々しい男の声が聞こえてくる。
坂元「大崎航の、いちファンさ。僕にとってステージ上の彼はまさに大崎航のイメージ通りだった。しかし、そんなことよりも。映像化すると大崎航の世界観が壊されないか懸念していたんだけど、見事に描かれていた。町田監督は素晴らしい。今後も大崎航の作品を映像化するならあの人に任せたい」
蒼(わかってくれる人が、いた)
男「……信者かよ」
女「行こ」
蒼、隣を歩く坂元(黒髪、長身、眼鏡)を見上げる。
蒼(うわあ。カッコイイ人)
蒼、坂元の横顔を見つめハッとする。
蒼(もしかして。いや。でも……)
坂元、蒼の方を見る。
蒼と坂元、目が合う。
蒼、咄嗟にそらす。
坂元「……?」
坂元、蒼を見つめたまま。
蒼「……っ」
蒼、気まずそうな表情。
蒼(見すぎた)
坂元「吉岡さん?」
蒼「!」
坂元、微笑む。
坂元「吉岡さんだ。驚いた」
蒼、頬を染め、坂元を見る。
蒼M「小学校では友達が多いほうじゃなかった。顔と名前が一致する同級生なんてそんなにいない。
だけど、坂元くんのことは、よく覚えている。覚えていないわけがない」
坂元「吉岡さんも“彼”のファンだったとは」
蒼「久しぶり!」
坂元「よかったらご飯でも行かない?」
蒼(……!!)
蒼、立ちすくむ。
周囲、人が少なくなる。
蒼(断る理由、ないよね)
蒼M「坂元くんとの食事を、一瞬躊躇ってしまったのは。そこにほんの少しだけ浮ついた気持ちが芽生えたからで。
だけど遠慮する理由なんて。
……わたしには、ない」
蒼(桂さんだって、今頃友達とご飯食べてないとも限らないよね)
木崎「吉岡」
木崎(キャップ、黒マスク)、蒼の背後から声をかける。
蒼「(小声)木崎く……!?」
木崎「来い。タダ飯食わせてやる」
蒼「は? どこに?」
木崎「打ち上げ」
蒼(打ち上げって。え。試写会の!?)
蒼「無理だよ。関係者じゃないし」
蒼、慌てる。
木崎「俺のマネージャーってことにでもしとけ」
木崎、蒼の手を掴む。
蒼「ええ……そんな適当な……」
木崎「頼む。一人でいたら、ぜってえ面倒なことになるから」
蒼(さては。女避けに使う気だな? わたしなら彼女感なくて調度いいってか?)
坂元「へえ。二人って繋がってたんだ」
坂元、にこやかに笑う。
木崎、坂元の顔を見て苦笑い。
木崎「なんでオマエがここにいんの」
坂元「そんな顔しなくていいだろ? 四年ぶりに会った旧友で、大崎航のファンの僕に」
木崎「……そういや読んでたな。教室で」
坂元「君が書いたなら。そう言ってくれよ」
木崎「言うかよ」
坂元、蒼を見る。
坂元「木崎と僕は中高と同じ男子校だったんだ」
蒼(なるほど)
坂元「プレミアのついたこの試写会のチケット。木崎から吉岡さんへのプレゼントだったりする?」
木崎「オマエに関係ねーだろ。それより吉岡。行くぞ」
蒼「行くって言った覚えない」
木崎「知るか」
木崎、蒼の手を引いて歩き出す。
坂元「相変わらず傲慢だね、君は」
坂元、木崎の手を掴み蒼から離す。
坂元「僕が先に吉岡さん誘ったんだけどな」
木崎「オマエが吉岡を?」
坂元「まあ。人気作家と人気俳優のいる打ち上げと、ただの同級生との食事じゃ。僕は勝ち目ないか」
蒼M「そんなこと、ない。
わたしは坂元くんと話がしたい。
だって、あなたは――」
蒼「改めてお祝いさせて」
木崎「はあ?」
蒼「言いたいこと沢山ありすぎて、まとめるの大変なんだけど。とにかく。すっごく良かった!!」
蒼、ガッツポーズ。
木崎「(まんざらでもない顔)……だろ?」
スタッフ「ここにおられましたか」
男性スタッフ、木崎を迎えに来る。
スタッフ「控室に元ってください。もうじき移動します」
木崎、不満げに蒼を見る。
木崎「……こねえの?」
蒼「感想送るね!」
木崎「いらねーよ。どうせ鬼なげえんだろ」
木崎、スタッフと去る。
(カメラの音)
影から様子を見ていた女、口元を緩める。
◯居酒屋、個室(夜)
蒼と坂元、向かい合って座る。
坂元「僕が選んだけど。ここでよかった?」
蒼「うん。二人で個室って初めてだ」
坂元「公開前の作品をネタバレありで語るには。うってつけだと思ってね」
蒼「さすが坂元くん。デキる男」
坂元「はは。なにそれ」
蒼「坂元くんは、みんなの正統派リーダーだった。委員長としてクラスのために動いてくれただけでなく、分け隔てなく誰にでも優しくてさ。ほら、わたしみたいな子でも」
坂元「正統派?」
蒼「そうそう。ちなみに正統派じゃないのは、木崎くん」
坂元、クスリと笑う。
坂元「たしかに木崎は独裁者だから。人気があった一方で、反木崎派の人間も少なからずいたね。大抵木崎に嫉妬してた連中だけど」
蒼と坂元、乾杯する。
テーブルに料理が並べられていく。
坂元「私みたいな子ってのは。謙遜しすぎじゃないかな」
蒼「そんなことないよ。わたしに優しくしてくれたの坂元くんくらいだったし」
坂元「木崎は? 吉岡さんのこと誰よりも可愛がっていたよね」
蒼「いやいや。なに言ってるの。あれが可愛がってたなら、どんなけ歪んでるのって話だよ」
坂元「吉岡さん知らないだろ」
蒼「なにを?」
坂元「木崎、自分から声かけてた女子。君だけだったよ」
蒼M「たしかに木崎くんはわたしに感化されたと言っていた。
それでも――」
蒼「優しくはなかったよ」
坂元「まあ意地悪だったね、彼は。でも。その割に今はやけに仲がよさそうだ」
蒼「!」
坂元「付き合ってるの?」
蒼「まさか」
坂元「じゃあ。今、彼氏は?」
蒼M「すぐにあの男の顔が頭に浮かんだけれど、一週間連絡もとっていなければ好きだと伝えていない男を恋人だと言えるわけもなく」
蒼「いないよ」
蒼M「付き合わない方がラクだと思いながらも、どこか、寂しく感じる自分がいた」
坂元「よかった」
蒼(……?)
坂元「あの頃は僕の方が近くにいたのに。今は吉岡さんと木崎の方がずっと濃密な関係を築いてるなんて。妬けちゃうな」
蒼M「え?」
坂元「ところで吉岡さん。今日は試写会のために東京まで?」
蒼(なに、いまの)
蒼「……ううん、こっちに住んでる。大学進学をきっかけに」
坂元「僕と同じだ」
蒼「そっか。坂元くんもなんだ」
坂元「なら、こうしてまた会うのは難しくないってことか」
蒼「え……」
坂元「吉岡さんが嫌なら別だけど」
蒼「…………」
坂元「本当に綺麗になったよね」
蒼M「まさか、坂元くんが。こんなに甘い空気を出すなんて」
蒼「嫌じゃないよ。むしろ、大崎航の作品を語る仲間ができて。すごく嬉しい」
坂元「仲間、か」
蒼「?」
坂元「吉岡さんとだったら。それ以上を期待してしまいそうだ」
蒼「…………」
蒼(坂元くん、こんな社交辞令言うようになったんだ)
蒼、困惑。
坂元、笑う。
坂元「深い意味はないよ」
蒼(で……すよねえ〜)
蒼M「最後に会ったのは、お互いが小学生の頃なのだ。変わっていないわけがない。
だけど、このひとは。坂元くんは。
当時、わたしのヒーローだった。そのイメージが焼き付いていて今も離れない」
蒼「映画、ほんとによかったよね。限られた尺の中でどこまで描けるんだろうって心配してたけど。杞憂だった」
坂元「忠実に再現されてたね。グロテスクなシーンがカットされていたけど、こちらで想像できるよう委ねてくれていたから恐怖は十分に感じられて、不満はないかな。って、こんな話を食事中にするもんじゃないか」
蒼「わたしは全然平気だよ」
蒼M「大崎航の世界観を共有できるのが、嬉しい」
坂元「女の子で大崎航のコアなファンは珍しいね」
蒼「たしかに。熱心なファンは男性が多い気がする。劇場にいた女の子、作品より俳優や大崎航のヴィジュアルに夢中って感じだったね」
坂元「……そうだね」
蒼「わたし、それが悔しくて。木崎くんの小説、本当に素晴らしいと思う。俳優さんたちの演技も良かった。だから、作品を純粋に楽しむ人が集まって欲しかった」
坂元「言いたいことはわかるよ。大きく芸名の入ったうちわ持って騒いでる子たちには俳優も苦笑いしてたから。禁止のアナウンスがあったのにも関わらず握手やサインを求めてる人たちもそうだ。映画の試写会に限ったことじゃないけど、場の空気を読まずに自分本位になる連中には首を傾げちゃうな」
蒼(そうなんだよ……!!)
蒼M「坂元くんは、わたしの心を代弁してくれた。価値観が同じ人と話すとこんなにも気分がいいものなんだな」
蒼「煙草。吸わないの?」
坂元「え?」
蒼「いや、ポケットに入ってるけど出さないから。気を使ってるのかなって」
坂元「あー、バレちゃったか。いや。別に食事中くらい我慢できるよ」
蒼「そっか。でも、一服したくなったら吸ってね?」
坂元「吉岡さんは喫煙者?」
蒼「んーん。でも、元カレがヘビースモーカーで。吸いたいときに吸えないのがストレスそうだなっていうのは、見ていて感じていたかな」
坂元「吉岡さんは、そうやって人に気を使ってきたんだね」
蒼M「……ちがう。
わたしがもっと気を使えていたら、先輩とは、まだ破局していなかったかもしれない」
坂元「ありがとう。お言葉に甘えてあとで一本吸わせてもらうよ。でも、気にしないで。吉岡さんとこうやって話してると気分いいから煙草で一服する必要ない」
蒼、頬を染める。
蒼M「本当は先輩に、煙草、やめて欲しかった。
不思議と先輩の煙草の香りは嫌いじゃなくて、でも、先輩以外の香りは苦手だった。
だから喫煙スペースに籠もられると近づけなくて。デート中に先輩一人の時間を作られるのが、すごく嫌だった。
先輩が知らない女の子と喫煙所で楽しそうに話してるのも見るのが辛かったんだ」
蒼(なんでこんなときに先輩のこと思い出して沈んじゃうかな)
蒼M「桂さんからは煙草の香りがしなかったけれど、桂さんの車に乗ったとき、微かにほろ苦い香りが漂っていた」
蒼(あれは本人の?……それとも乗せた別の誰かのが残っていた? わたしの前では一度も吸っていないよね)
坂元「心配しなくても、『初恋』が公開されたら。今日来られなかった純粋なファンからの正当な評価も増えるよ」
蒼「……! そうだね」
坂元「言いたい人には言いわせておけばいい。そのくらいで木崎はへこたれない」
蒼(それもそうか)
蒼「中学や高校では仲よかったの?」
坂元「いいや、ただの同級生。それでも木崎は目立つやつだったから、色んな話は聞いていたよ」
蒼「どんな?」
坂元「門のところに迎えにくる彼女が週代わりだとか」
蒼「うーわ。木崎くんらしい」
坂元「遊んでるのに当たり前のように学年トップに君臨してくるとか」
蒼、酒を飲む。
蒼「……木崎くんってさ。遊んでるかもしれないけど、努力だってしてるよね。だからそれを知らない人がイメージで木崎くんを悪く言うの、すごく腹が立つ。素敵な作品そっちのけでアイドル扱いされてるのも嫌だな」
蒼、俯く。
坂元「わかるよ。僕も悔しい。だけど、安心して。吉岡さんや僕のように、見てる人はしっかり見てるんだから」
蒼「坂元くん……」
蒼、顔をあげる。
坂元「これを見て」
坂元、携帯をテーブルに置く。
(携帯画面)
トレンド【大崎航】
蒼M「大崎航がSNSで話題になっていることがひと目でわかった。
今、この瞬間。木崎くんが何万――いいや、何十万もの人に話題にされているのだ」
坂元「これだけの人間が。世間が。世界が、木崎に注目している」
蒼「…………」
坂元「素性を明かした以上、ミステリアスな作家としては生きていけない。これからは、これまで以上に大崎航の看板を背負って行動していくことになるだろうね」
蒼(なにをしてても大崎航がって目で見られるのか。デートしてても。毎日スーパーで買い物してても。気づかれて、あれこれ目撃情報書かれたりするの?)
蒼「それって……。すごく。窮屈だろうな」
坂元「ほんとにね。木崎は、どうして窮屈な生き方を選んだんだろう。吉岡さん、なにか聞いてない?」
× × ×
(フラッシュ)
蒼マンション、ダイニング。
木崎「どうせ、もうじき顔出ししますからね」
桂「情報解禁ですか。どうしてミステリアスな作家の君が。素性を明かそうと思ったんです?」
蒼「あっ、それ。わたしも気になる」
蒼、木崎を見る。
木崎、目を逸らす。
木崎「黙秘権は」
× × ×
蒼「わたしは……聞いてない」
蒼M「言いたくないみたいだった」
坂元「そっか。まあ。木崎なりに思うところがあったんだろう」
蒼「坂元くんは。大崎航が木崎くんって、今日知ったの? それとも実は、そんな気がしていて。それでファンに……」
坂元「さあね。どう思う?」
蒼M「なぜかわたしには、坂元くんが、大崎航の正体に気づいていたんじゃないかと思えてならなかった」
坂元、蒼のグラス(空)に視線を向けたあと、ドリンクのメニューを蒼に渡す。
坂元「おかわりどうする?」
蒼「えっと、一緒のもので」
坂元「好きなんだね。ファジーネーブル」
蒼「うん。飲みやすいし」
坂元「甘いのが好き?」
蒼「うん」
坂元「加えて炭酸ないのが飲みやすいとか」
蒼「よくわかったね」
坂元「だったらオススメのがある。ここのお店オリジナルので」
蒼「ほんと?」
坂元「気に入らなければ僕が飲むから。チャレンジしてみたら」
蒼「そうしようかな」
坂元、店員を呼んで蒼のドリンクを注文。
蒼(気が利くところ、昔と変わってない。何度か来たことあるみたいだな。それも。わたしの勘では、女の子。
ほんと。色男に育ったな、委員長)
蒼「ごめん。ちょっと。お手洗いに」
蒼、個室を出る。
◯居酒屋、トイレ(夜)
蒼、鏡の前で手を洗う。携帯を取り出す。
蒼M「桂さんから連絡が途絶えた。
かれこれ一週間、電話もメッセもない。会ってもいない。
わたしの職場に通うのが使命みたいなところあったクセに突然消えられたら、事故やトラブルに巻き込まれていないか心配になってくる。
たかが一週間。されど一週間」
蒼(そもそもに。一緒に住もうって言ったのに音沙汰なしってどういうこと?)
蒼M「なにも困ることなんてない。
わたしはわたしのペースで生きるのが、なによりもラクなのだ。
職場にアレがきたら迷惑だ。あの奇天烈に振り回されずに済んでいる。平和で結構。
……って、考えてやりたいのに」
蒼、泣きそうな顔になる。
蒼(寂しい)
◯居酒屋、通路(夜)
蒼M「だったら自分から連絡すればいい。
でも、わたしから近づくのは、苦手だ」
蒼(重いって想われたら? 釣った魚には餌を与えないタイプだったら?)
× × ×
(フラッシュ)
(メッセージ)
先輩【ごめん。蒼のこと好きかどうかわからなくなった】
× × ×
蒼M「過去の失敗を繰り返しそうで、怖い」
蒼(いくら忙しくても、さすがに、一週間も連絡してこないってことはないんじゃない? ワイン飲んだあと朝まで放ったらかしにしたのはマズかった? 翌朝、キスしてくれたけど。暮らそうなんて思いつきで言ったものの、一人になって、その気も冷めちゃったとか……)
蒼M「今のわたしには。
どうにか期待値を下げることしかできないらしい。
カレシに会える日を素直に待ち望むカワイイカノジョになんてなれないのだ」
蒼(次に会ったとき。どんな顔すればいいの。そもそもに。また会えるの?)
◯居酒屋、個室(夜)
(煙草を咥えてる)坂元、携帯を手に取る。
(メッセージ)(坂元携帯)
【もうすぐ店を出る】
坂元、口元を歪めて笑う。
(第十五話 おわり)
◯都内シアター、劇場内(夕方)
カメラマン多数。
蒼、挙動不審。
蒼(報道陣多い)
(看板)
『初恋』舞台挨拶付き完成披露試写会
蒼、席につき開始を待つ。
男「知ってるか。大崎航が実は女って説」
女「えー、あたしはイケメン説を推す」
男「イケメンなら顔出してんだろ」
後方から男女の声が聞こえてくる。
蒼、ムスッとする。
蒼(木崎くんは正真正銘のイケメンですよーだ)
蒼M「大崎航の実写映画が、まもなく上映される。
それだけで興奮モノだが――」
司会『お待たせ致しました』
蒼M「上映前のキャスト、スタッフによる舞台挨拶で木崎くんが人気俳優らと違和感なく、堂々と並んでいるのを見て。
滾った」
蒼(……凄いなあ)
◯同、出入口付近(夜)
試写会、終わる。
ぞろぞろと人が劇場から出ていく。
蒼(余韻すごい。この感動を誰かと分かち合いたい。まずは木崎くんにメッセ送って。ネットにネタバレしないようにレポートあげて。それから……)
蒼、流れに乗って歩く。
女「やばかったね!?」
女「SNSフォローしちゃった」
蒼(!)
女「あたしもする〜! サイン会とかやって欲しい」
女「あれば絶対行くのに。独身かな?」
女「指輪してなかったけど彼女いそうだよね」
女「番宣でテレビとかいっぱい出て欲しい」
女「裏口から出てくるんじゃない!?」
女「え、行ってみよー!!」
蒼(おいおい。木崎くんはアイドルか)
男「顔で仕事とってきたんじゃねーの」
男「才能あるやつはいいよなー。俺も文章力あるイケメンに転生して汗水流さずに生きてえ」
蒼(は?)
男「ゴーストライターいたりして」
蒼(……なにそれ)
男「あんなチャラチャラしてそうなやつが大崎航って言われても信用なんねーわ」
蒼(なんでみんな映画の感想言ってないの? もっとあるでしょ。素晴らしかったでしょ)
蒼M「腹が立つ」
蒼(反論してやりたいけど。ここは冷静に……)
坂元「僕は憧れるけどな。ああいう男」
蒼(!)
坂元「そうやって外見で判断されるのが嫌で顔隠してたんじゃない?」
男「なんだよテメェ」
蒼、すぐ近くから穏やかな男の声と、荒々しい男の声が聞こえてくる。
坂元「大崎航の、いちファンさ。僕にとってステージ上の彼はまさに大崎航のイメージ通りだった。しかし、そんなことよりも。映像化すると大崎航の世界観が壊されないか懸念していたんだけど、見事に描かれていた。町田監督は素晴らしい。今後も大崎航の作品を映像化するならあの人に任せたい」
蒼(わかってくれる人が、いた)
男「……信者かよ」
女「行こ」
蒼、隣を歩く坂元(黒髪、長身、眼鏡)を見上げる。
蒼(うわあ。カッコイイ人)
蒼、坂元の横顔を見つめハッとする。
蒼(もしかして。いや。でも……)
坂元、蒼の方を見る。
蒼と坂元、目が合う。
蒼、咄嗟にそらす。
坂元「……?」
坂元、蒼を見つめたまま。
蒼「……っ」
蒼、気まずそうな表情。
蒼(見すぎた)
坂元「吉岡さん?」
蒼「!」
坂元、微笑む。
坂元「吉岡さんだ。驚いた」
蒼、頬を染め、坂元を見る。
蒼M「小学校では友達が多いほうじゃなかった。顔と名前が一致する同級生なんてそんなにいない。
だけど、坂元くんのことは、よく覚えている。覚えていないわけがない」
坂元「吉岡さんも“彼”のファンだったとは」
蒼「久しぶり!」
坂元「よかったらご飯でも行かない?」
蒼(……!!)
蒼、立ちすくむ。
周囲、人が少なくなる。
蒼(断る理由、ないよね)
蒼M「坂元くんとの食事を、一瞬躊躇ってしまったのは。そこにほんの少しだけ浮ついた気持ちが芽生えたからで。
だけど遠慮する理由なんて。
……わたしには、ない」
蒼(桂さんだって、今頃友達とご飯食べてないとも限らないよね)
木崎「吉岡」
木崎(キャップ、黒マスク)、蒼の背後から声をかける。
蒼「(小声)木崎く……!?」
木崎「来い。タダ飯食わせてやる」
蒼「は? どこに?」
木崎「打ち上げ」
蒼(打ち上げって。え。試写会の!?)
蒼「無理だよ。関係者じゃないし」
蒼、慌てる。
木崎「俺のマネージャーってことにでもしとけ」
木崎、蒼の手を掴む。
蒼「ええ……そんな適当な……」
木崎「頼む。一人でいたら、ぜってえ面倒なことになるから」
蒼(さては。女避けに使う気だな? わたしなら彼女感なくて調度いいってか?)
坂元「へえ。二人って繋がってたんだ」
坂元、にこやかに笑う。
木崎、坂元の顔を見て苦笑い。
木崎「なんでオマエがここにいんの」
坂元「そんな顔しなくていいだろ? 四年ぶりに会った旧友で、大崎航のファンの僕に」
木崎「……そういや読んでたな。教室で」
坂元「君が書いたなら。そう言ってくれよ」
木崎「言うかよ」
坂元、蒼を見る。
坂元「木崎と僕は中高と同じ男子校だったんだ」
蒼(なるほど)
坂元「プレミアのついたこの試写会のチケット。木崎から吉岡さんへのプレゼントだったりする?」
木崎「オマエに関係ねーだろ。それより吉岡。行くぞ」
蒼「行くって言った覚えない」
木崎「知るか」
木崎、蒼の手を引いて歩き出す。
坂元「相変わらず傲慢だね、君は」
坂元、木崎の手を掴み蒼から離す。
坂元「僕が先に吉岡さん誘ったんだけどな」
木崎「オマエが吉岡を?」
坂元「まあ。人気作家と人気俳優のいる打ち上げと、ただの同級生との食事じゃ。僕は勝ち目ないか」
蒼M「そんなこと、ない。
わたしは坂元くんと話がしたい。
だって、あなたは――」
蒼「改めてお祝いさせて」
木崎「はあ?」
蒼「言いたいこと沢山ありすぎて、まとめるの大変なんだけど。とにかく。すっごく良かった!!」
蒼、ガッツポーズ。
木崎「(まんざらでもない顔)……だろ?」
スタッフ「ここにおられましたか」
男性スタッフ、木崎を迎えに来る。
スタッフ「控室に元ってください。もうじき移動します」
木崎、不満げに蒼を見る。
木崎「……こねえの?」
蒼「感想送るね!」
木崎「いらねーよ。どうせ鬼なげえんだろ」
木崎、スタッフと去る。
(カメラの音)
影から様子を見ていた女、口元を緩める。
◯居酒屋、個室(夜)
蒼と坂元、向かい合って座る。
坂元「僕が選んだけど。ここでよかった?」
蒼「うん。二人で個室って初めてだ」
坂元「公開前の作品をネタバレありで語るには。うってつけだと思ってね」
蒼「さすが坂元くん。デキる男」
坂元「はは。なにそれ」
蒼「坂元くんは、みんなの正統派リーダーだった。委員長としてクラスのために動いてくれただけでなく、分け隔てなく誰にでも優しくてさ。ほら、わたしみたいな子でも」
坂元「正統派?」
蒼「そうそう。ちなみに正統派じゃないのは、木崎くん」
坂元、クスリと笑う。
坂元「たしかに木崎は独裁者だから。人気があった一方で、反木崎派の人間も少なからずいたね。大抵木崎に嫉妬してた連中だけど」
蒼と坂元、乾杯する。
テーブルに料理が並べられていく。
坂元「私みたいな子ってのは。謙遜しすぎじゃないかな」
蒼「そんなことないよ。わたしに優しくしてくれたの坂元くんくらいだったし」
坂元「木崎は? 吉岡さんのこと誰よりも可愛がっていたよね」
蒼「いやいや。なに言ってるの。あれが可愛がってたなら、どんなけ歪んでるのって話だよ」
坂元「吉岡さん知らないだろ」
蒼「なにを?」
坂元「木崎、自分から声かけてた女子。君だけだったよ」
蒼M「たしかに木崎くんはわたしに感化されたと言っていた。
それでも――」
蒼「優しくはなかったよ」
坂元「まあ意地悪だったね、彼は。でも。その割に今はやけに仲がよさそうだ」
蒼「!」
坂元「付き合ってるの?」
蒼「まさか」
坂元「じゃあ。今、彼氏は?」
蒼M「すぐにあの男の顔が頭に浮かんだけれど、一週間連絡もとっていなければ好きだと伝えていない男を恋人だと言えるわけもなく」
蒼「いないよ」
蒼M「付き合わない方がラクだと思いながらも、どこか、寂しく感じる自分がいた」
坂元「よかった」
蒼(……?)
坂元「あの頃は僕の方が近くにいたのに。今は吉岡さんと木崎の方がずっと濃密な関係を築いてるなんて。妬けちゃうな」
蒼M「え?」
坂元「ところで吉岡さん。今日は試写会のために東京まで?」
蒼(なに、いまの)
蒼「……ううん、こっちに住んでる。大学進学をきっかけに」
坂元「僕と同じだ」
蒼「そっか。坂元くんもなんだ」
坂元「なら、こうしてまた会うのは難しくないってことか」
蒼「え……」
坂元「吉岡さんが嫌なら別だけど」
蒼「…………」
坂元「本当に綺麗になったよね」
蒼M「まさか、坂元くんが。こんなに甘い空気を出すなんて」
蒼「嫌じゃないよ。むしろ、大崎航の作品を語る仲間ができて。すごく嬉しい」
坂元「仲間、か」
蒼「?」
坂元「吉岡さんとだったら。それ以上を期待してしまいそうだ」
蒼「…………」
蒼(坂元くん、こんな社交辞令言うようになったんだ)
蒼、困惑。
坂元、笑う。
坂元「深い意味はないよ」
蒼(で……すよねえ〜)
蒼M「最後に会ったのは、お互いが小学生の頃なのだ。変わっていないわけがない。
だけど、このひとは。坂元くんは。
当時、わたしのヒーローだった。そのイメージが焼き付いていて今も離れない」
蒼「映画、ほんとによかったよね。限られた尺の中でどこまで描けるんだろうって心配してたけど。杞憂だった」
坂元「忠実に再現されてたね。グロテスクなシーンがカットされていたけど、こちらで想像できるよう委ねてくれていたから恐怖は十分に感じられて、不満はないかな。って、こんな話を食事中にするもんじゃないか」
蒼「わたしは全然平気だよ」
蒼M「大崎航の世界観を共有できるのが、嬉しい」
坂元「女の子で大崎航のコアなファンは珍しいね」
蒼「たしかに。熱心なファンは男性が多い気がする。劇場にいた女の子、作品より俳優や大崎航のヴィジュアルに夢中って感じだったね」
坂元「……そうだね」
蒼「わたし、それが悔しくて。木崎くんの小説、本当に素晴らしいと思う。俳優さんたちの演技も良かった。だから、作品を純粋に楽しむ人が集まって欲しかった」
坂元「言いたいことはわかるよ。大きく芸名の入ったうちわ持って騒いでる子たちには俳優も苦笑いしてたから。禁止のアナウンスがあったのにも関わらず握手やサインを求めてる人たちもそうだ。映画の試写会に限ったことじゃないけど、場の空気を読まずに自分本位になる連中には首を傾げちゃうな」
蒼(そうなんだよ……!!)
蒼M「坂元くんは、わたしの心を代弁してくれた。価値観が同じ人と話すとこんなにも気分がいいものなんだな」
蒼「煙草。吸わないの?」
坂元「え?」
蒼「いや、ポケットに入ってるけど出さないから。気を使ってるのかなって」
坂元「あー、バレちゃったか。いや。別に食事中くらい我慢できるよ」
蒼「そっか。でも、一服したくなったら吸ってね?」
坂元「吉岡さんは喫煙者?」
蒼「んーん。でも、元カレがヘビースモーカーで。吸いたいときに吸えないのがストレスそうだなっていうのは、見ていて感じていたかな」
坂元「吉岡さんは、そうやって人に気を使ってきたんだね」
蒼M「……ちがう。
わたしがもっと気を使えていたら、先輩とは、まだ破局していなかったかもしれない」
坂元「ありがとう。お言葉に甘えてあとで一本吸わせてもらうよ。でも、気にしないで。吉岡さんとこうやって話してると気分いいから煙草で一服する必要ない」
蒼、頬を染める。
蒼M「本当は先輩に、煙草、やめて欲しかった。
不思議と先輩の煙草の香りは嫌いじゃなくて、でも、先輩以外の香りは苦手だった。
だから喫煙スペースに籠もられると近づけなくて。デート中に先輩一人の時間を作られるのが、すごく嫌だった。
先輩が知らない女の子と喫煙所で楽しそうに話してるのも見るのが辛かったんだ」
蒼(なんでこんなときに先輩のこと思い出して沈んじゃうかな)
蒼M「桂さんからは煙草の香りがしなかったけれど、桂さんの車に乗ったとき、微かにほろ苦い香りが漂っていた」
蒼(あれは本人の?……それとも乗せた別の誰かのが残っていた? わたしの前では一度も吸っていないよね)
坂元「心配しなくても、『初恋』が公開されたら。今日来られなかった純粋なファンからの正当な評価も増えるよ」
蒼「……! そうだね」
坂元「言いたい人には言いわせておけばいい。そのくらいで木崎はへこたれない」
蒼(それもそうか)
蒼「中学や高校では仲よかったの?」
坂元「いいや、ただの同級生。それでも木崎は目立つやつだったから、色んな話は聞いていたよ」
蒼「どんな?」
坂元「門のところに迎えにくる彼女が週代わりだとか」
蒼「うーわ。木崎くんらしい」
坂元「遊んでるのに当たり前のように学年トップに君臨してくるとか」
蒼、酒を飲む。
蒼「……木崎くんってさ。遊んでるかもしれないけど、努力だってしてるよね。だからそれを知らない人がイメージで木崎くんを悪く言うの、すごく腹が立つ。素敵な作品そっちのけでアイドル扱いされてるのも嫌だな」
蒼、俯く。
坂元「わかるよ。僕も悔しい。だけど、安心して。吉岡さんや僕のように、見てる人はしっかり見てるんだから」
蒼「坂元くん……」
蒼、顔をあげる。
坂元「これを見て」
坂元、携帯をテーブルに置く。
(携帯画面)
トレンド【大崎航】
蒼M「大崎航がSNSで話題になっていることがひと目でわかった。
今、この瞬間。木崎くんが何万――いいや、何十万もの人に話題にされているのだ」
坂元「これだけの人間が。世間が。世界が、木崎に注目している」
蒼「…………」
坂元「素性を明かした以上、ミステリアスな作家としては生きていけない。これからは、これまで以上に大崎航の看板を背負って行動していくことになるだろうね」
蒼(なにをしてても大崎航がって目で見られるのか。デートしてても。毎日スーパーで買い物してても。気づかれて、あれこれ目撃情報書かれたりするの?)
蒼「それって……。すごく。窮屈だろうな」
坂元「ほんとにね。木崎は、どうして窮屈な生き方を選んだんだろう。吉岡さん、なにか聞いてない?」
× × ×
(フラッシュ)
蒼マンション、ダイニング。
木崎「どうせ、もうじき顔出ししますからね」
桂「情報解禁ですか。どうしてミステリアスな作家の君が。素性を明かそうと思ったんです?」
蒼「あっ、それ。わたしも気になる」
蒼、木崎を見る。
木崎、目を逸らす。
木崎「黙秘権は」
× × ×
蒼「わたしは……聞いてない」
蒼M「言いたくないみたいだった」
坂元「そっか。まあ。木崎なりに思うところがあったんだろう」
蒼「坂元くんは。大崎航が木崎くんって、今日知ったの? それとも実は、そんな気がしていて。それでファンに……」
坂元「さあね。どう思う?」
蒼M「なぜかわたしには、坂元くんが、大崎航の正体に気づいていたんじゃないかと思えてならなかった」
坂元、蒼のグラス(空)に視線を向けたあと、ドリンクのメニューを蒼に渡す。
坂元「おかわりどうする?」
蒼「えっと、一緒のもので」
坂元「好きなんだね。ファジーネーブル」
蒼「うん。飲みやすいし」
坂元「甘いのが好き?」
蒼「うん」
坂元「加えて炭酸ないのが飲みやすいとか」
蒼「よくわかったね」
坂元「だったらオススメのがある。ここのお店オリジナルので」
蒼「ほんと?」
坂元「気に入らなければ僕が飲むから。チャレンジしてみたら」
蒼「そうしようかな」
坂元、店員を呼んで蒼のドリンクを注文。
蒼(気が利くところ、昔と変わってない。何度か来たことあるみたいだな。それも。わたしの勘では、女の子。
ほんと。色男に育ったな、委員長)
蒼「ごめん。ちょっと。お手洗いに」
蒼、個室を出る。
◯居酒屋、トイレ(夜)
蒼、鏡の前で手を洗う。携帯を取り出す。
蒼M「桂さんから連絡が途絶えた。
かれこれ一週間、電話もメッセもない。会ってもいない。
わたしの職場に通うのが使命みたいなところあったクセに突然消えられたら、事故やトラブルに巻き込まれていないか心配になってくる。
たかが一週間。されど一週間」
蒼(そもそもに。一緒に住もうって言ったのに音沙汰なしってどういうこと?)
蒼M「なにも困ることなんてない。
わたしはわたしのペースで生きるのが、なによりもラクなのだ。
職場にアレがきたら迷惑だ。あの奇天烈に振り回されずに済んでいる。平和で結構。
……って、考えてやりたいのに」
蒼、泣きそうな顔になる。
蒼(寂しい)
◯居酒屋、通路(夜)
蒼M「だったら自分から連絡すればいい。
でも、わたしから近づくのは、苦手だ」
蒼(重いって想われたら? 釣った魚には餌を与えないタイプだったら?)
× × ×
(フラッシュ)
(メッセージ)
先輩【ごめん。蒼のこと好きかどうかわからなくなった】
× × ×
蒼M「過去の失敗を繰り返しそうで、怖い」
蒼(いくら忙しくても、さすがに、一週間も連絡してこないってことはないんじゃない? ワイン飲んだあと朝まで放ったらかしにしたのはマズかった? 翌朝、キスしてくれたけど。暮らそうなんて思いつきで言ったものの、一人になって、その気も冷めちゃったとか……)
蒼M「今のわたしには。
どうにか期待値を下げることしかできないらしい。
カレシに会える日を素直に待ち望むカワイイカノジョになんてなれないのだ」
蒼(次に会ったとき。どんな顔すればいいの。そもそもに。また会えるの?)
◯居酒屋、個室(夜)
(煙草を咥えてる)坂元、携帯を手に取る。
(メッセージ)(坂元携帯)
【もうすぐ店を出る】
坂元、口元を歪めて笑う。
(第十五話 おわり)