私と結婚しませんか
#20 必要ですか?
第二十話『必要ですか?』


◯桂マンション、寝室(朝)


蒼M「皮肉にも坂元くんの一件で桂さんとの距離が急激に近づいたわたしは、大学生の頃から使っていたマンションから都心にある恭一さんのマンションに移り住んだ。
 他人との共同生活なんて息が詰まるから何よりも避けたかったことなのに。
 恭一さんと顔を合わせる頻度があがる(とはいえ忙しいと会社に泊まり込むこともあるんだとか)と思うとわくわくしている自分がいる」

桂「蒼さん」
蒼「ん……おはようござい……っ!?」

   桂、蒼に覆いかぶさる。

蒼M「桂さんは目覚まし代わりに襲いかかってくる」

蒼「パジャマをきちんと着て寝たはずなのに乱れているのですが」
桂「気のせいです」
蒼(そんなわけあるか)
蒼「わたしが寝てるときに勝手になにかするのやめてって言いましたよね!?」
桂「我慢できませんでした」

蒼M「しろ!!」

桂「ですが。蒼さん、嫌がってませんでしたよ?」
蒼「……っ」

蒼M「性欲の塊め」

蒼「なんなんですか。特殊性癖ってやつですか」
桂「いいえ。シンプルにいつでもシたくなるだけです。蒼さんが可愛いので」
蒼(可愛いって言えばなんでも済むと思うなよ)
桂「貴女って人は。どうしてそんなに可愛いんですか」

   蒼と桂、見つめ合う。

蒼M「負けた!!」

   蒼、赤面。
   桂、蒼の服を脱がす。

蒼「あの。もう少し、寝ていたいなーって」
桂「どうぞ。勝手に続けていますので」
蒼「続けないでください。というか。朝からしたら……疲れません?」
蒼(タフだなあ)
桂「朝のセックスは健康にいいそうですよ」
蒼(ほんとかな)
桂「オーガズムしやすいらしいです」
蒼「し、知らないですそんなの」
桂「そんなこといって。いつも期待以上に可愛い反応してくれるのが蒼さんです」
蒼「……っ」

   桂、蒼を撫でる。そのままキス。
    
蒼M「そんな笑顔、見せられたら。
 甘くキスされたら。
 優しく愛されたら、応えるしかないじゃないですか」

   蒼、頬を染め桂を見上げる。
   桂、愛撫する。

桂「ここがいいんですよね?」
蒼「(悔しげに照れる)〜〜っ」

蒼M「ヘンタイからただの色男になる瞬間がズルい」

   蒼、手で自分の顔を覆う。左手の薬指にハメられた指輪に気づく。
   蒼、目を見開く。

蒼「なっ……これ……」
桂「お揃いです」

   桂、自分の左手を蒼に見せる。

蒼「婚約……指輪!?」
桂「はは。そんなに重く捉えないでください。ただ、わたしが蒼さんと一緒にペアリングつけたかっただけなので。できれば永遠に」

蒼M「クッソ重いわ!!」

蒼(ピッタリなのが怖い。そして高そうなので扱うのが怖い)

桂「お気に召していただけて良かったです」
蒼「誰が……」


◯スーパー、試食コーナー


   蒼、呆然と自分の左手の薬指を眺める。

蒼M「めちゃくちゃ嬉しい!!」

蒼(サプライズは反則だ……しかもデザイン可愛いし……好きな男とのペアリング……はあ……世界中のひとに自慢したい)

蒼M「どうしてこうなった?」

蒼(おかしい。恋愛から離れていたはずが。なぜここまで色ボケしてしまった)

結衣「おねえちゃーん!」
蒼「あ、ユイちゃん」

蒼(今日は上機嫌だな。さては。カナタくんと仲直りできたな?)

蒼M「前に恋愛相談を受けてから一ヶ月くらいたったが。本命のカナタくんとの進展はいかに」

結衣「ユイ、ミナトくんと、お付き合いすることにした!」

蒼M「まさかの当て馬くん逆転大勝利!?」

蒼(っていうか。付き合うって。ほんとイマドキの小学生進んでるな)
蒼「そっか。ユイちゃんは、ミナトくんが好きだったんだね」
結衣「んー、たぶんカナタくんが好きだったんだけど。まっすぐなミナトくんの想いが嬉しくて。気づいたらミナトくんがいいって思ったの」

蒼(よくやったなミナト! プレイボーイに勝ったか好青年!)

   蒼、ガッツポーズ。

蒼「よかったね。お幸せにね」
結衣「うん! 結婚する!」

蒼(はあ。かわいい。わたしがユイちゃんと結婚したい)

蒼M「わたしにも、そんなに簡単に結婚するなんて言えた頃があったのだろうか」

   蒼、結衣を見つめる。

蒼(こんな天使みたいな女の子が産まれたら確実に親バカになりそう。嫁に行くとき大泣きするな。もはやいかせたくないわ)

結衣「お姉ちゃんも彼氏できたの!?」
蒼「え?」
結衣「指輪!!」

   結衣、目を輝かせる。

蒼(目ざといな。さすが、女の子)

蒼「……うん」
結衣「いいなー! 結衣もミナトくんとお揃いの欲しいなあ」
蒼(はえーだろ。小学生でペアリングは。いや、でもこの子ならゲットしかねんな)
結衣「そっかそっか。オジちゃん頑張ったんだ」

蒼M「?」

結衣「やっと振り向いてもらえたのか」
蒼「なに言ってるのユイちゃん」
結衣「ユイが、ふたりの恋のキューピットなんだよ?」
蒼「……?」
結衣「ユイが、オジちゃんにお姉ちゃんのこと話さなかったら。オジちゃん、お姉ちゃんに会ってなかったもんね」

蒼M「えーっと。
 頭がついていきませんが。
 この子は一体なにを……」

椿「ユイ、帰るわよ」

   蒼、椿を見る。

蒼(相変わらずお綺麗だな)

椿「ご婚約、おめでとうございます」
蒼「へ?」
椿「うちのボンクラな弟。もらってやってくれてありがとう」
蒼「…………」

蒼M「ボンクラな弟――!?」

椿「見た目だけは昔から悪くなかったんだけど。根っからのオタク気質で。家を放り出して好きなことばかり。跡取りなのに、結婚する気もないとか言って気づいたら会社作って」
蒼「(青ざめて)か……桂さんの、お姉さま?」
椿「ご挨拶が遅れてすみません。桂 椿(つばき)です」

蒼M「名字が桂ってことは。
 旦那さんは婿養子?
 ユイちゃんは恭一さんの姪っ子!?」

椿「うちは、ここらの地主なんですよ。祖父も父も議員で顔がちょっとばかり広かったりするんですけど」

蒼M「ちょっとじゃないよね!!」

椿「恭一に期待しても無駄なので。私が取り仕切ることに」
蒼「そう、なんですね」
椿「きっと。あの子はこれからも好き勝手生きるでしょう。それを止めるものはいません。止められるとしたら、貴女くらいかしら」
蒼「……わたし?」
椿「苦労をおかけすると思いますが。どうか恭一のこと、よろしくお願いしますね」
蒼「こちらこそ……」

蒼M「って、ちょっと待たんかい」


◯桂マンション、玄関(夜)

   桂、両手を広げ蒼に近寄る。

桂「ただいま、蒼さん。ああ。家に帰ると蒼さんがいると思うと。もう大変でした」
蒼「なにがだよ。いや、そんなことより。どうしてナイショにしてたんですか。ユイちゃんのこと――」
桂「お帰りなさいのキスはおあずけですか?」

   桂、蒼を覗き込む。

蒼「……っ」

   蒼、桂の頬にキスをする。

桂「HPが全回復しました」
蒼(回復するのはやいよ)
桂「この続きは私が手洗いうがいしてからゆっくりと」
蒼(ご飯前におっぱじめようとしやがって)
蒼「って、その前に話があります!」
桂「(真顔)……別れ話なら聞きません」
蒼「そうじゃなくて」


◯桂マンション、リビング(夜)


桂「結衣がどうかしましたか」

   桂、ネクタイを緩める。

蒼「ユイちゃんが恋のキューピットって、ほんとですか?」
桂「蒼さんのエプロン姿。何度見てもたまりませんねえ」

   桂、ソファに座る。

蒼「話を聞け」
桂「ええ。その通りですよ」

   桂、蒼の腕を引く。膝の上に蒼を(対面で)乗せる。

桂「親身なお姉さんがいると伺いましてねえ。聞けば試食コーナーに不定期に現れるそうじゃないですか。是非、お会いしてみたくなりましてね。すぐに店長に連絡し、貴女のことを聞き出しました」
蒼(やること大胆すぎます)
桂「地元のスーパーの店長です。昔からの知り合いでしたので、快く教えてくれましたよ。といっても個人情報の関係で、簡単にしか聞き出せませんでしたが」
蒼「当たり前です」
蒼(快くっていうか無言の圧力を感じて逆らえなかったんじゃ……やたらペコペコしてたもんなあ)
桂「そもそもに貴女の個人情報は店長でなく派遣先の佐藤社長が握っていたのです」
蒼「でしょうね」
桂「なので佐藤社長を紹介してもらい。近づきました」

蒼M「ストーカー!!」

桂「というのも、うちで開催するイベントも年々大きくなってきましてね。人手不足ではあったのです」
蒼「……へえ」
蒼(じゃあ最初はスカウト目的でわたしに興味持ったの?)

桂「ひとめ見た瞬間。欲しいと思いました」

   蒼と桂、見つめ合う。

蒼「それでウインナー下さいって話しかけて来たんですか」
桂「あの日はですね。そっと見守るつもりだったのですが。つい。我慢できなくなってしまって」
蒼(あの日は?)
桂「一番最初にお会いしたときは、貴女は接客中で私に気づきもしなかった」

蒼(マジか。わたしは、こんなにオーラある人が近くにいたのに気づかなかったのか)

桂「あなたの業務ではないのに棚を陳列していたり、危険を察知するなど細かいところに目が行き届いていて。小学生の心を掴んでいく様子を見て。あなたという人間に興味を抱いていると同時に特別な感情があるのだと気づきました」
蒼「それって……」
桂「愛です」

蒼M「愛は愛でも偏った愛ですね」

桂「来年から大きなプロジェクトを始めるのですが。イベント開催にあたり、適材を探していました。気配りができて、それでいて堅苦しくない、老若男女から慕われている貴女はピッタリだと感じました」
蒼「桂さんは、わたしと仕事がしたかったんですか?」
桂「そのつもりでした。ですが。出逢ってからはその考えはどこかに吹っ飛び。ただのオスになって貴女を求めてしまいました」

蒼M「ダメだこいつ!!」

桂「佐藤社長と貴女の契約をすぐに解除させて。私との個人契約をしてもらいたい衝動にかられたのですが」
蒼(結婚のこと個人契約って言うなや)
桂「貴女が生き生きと働いているのを見てしまいましたので。邪魔はしてはならないと思いとどまりました。商品を買い占めたのは。私のこと覚えてもらいたいなという狙いもありまして」
蒼「いやフーフー頼まれた時点で記憶に残りますよ。もちろんブラックリストの方に」
桂「好きです。大好きです、蒼さん」

   桂、蒼にキスする。

蒼「椿さんにわたしのこと婚約者だと言ったんですか」
桂「いいえ?」
蒼「婚約おめでとうって言われたんですけど」
桂「私は、ただ。未来の嫁だと」

蒼M「同じことだろう!!」

蒼「どうしてくれるんですか」
桂「責任なら。一生かけてとりますよ」
蒼「……ズルいです」
桂「心配しなくても、私の気が変わることはありえません。一緒にいて大好きなところが増えることはあっても減ることはないのです」

蒼M「桂さんは、わたしといると、ものすごくカッコ悪くなってしまう」

桂「今夜はロールキャベツですか」
蒼「……よくわかりましたね?」
桂「実はさっき鍋を覗いてきました。いただいていいですか」
蒼「もちろんです。食べてもらおう思って作ったんですから」
桂「はあ。蒼さんにこねられ煮込まれるロールキャベツになりたい」
蒼「気持ちわるいです」

蒼M「だけど――」

   桂と蒼、食事する。

桂「とても美味しいです」
蒼「……あの、桂さん」
桂「はい」
蒼「桂さんは。もう。一生バカになってたらいいと思います」
桂「どういうことでしょうか」

   桂、頭を傾ける。

蒼「わたしが見ていないところでは。きっと、いつも気を張ってお疲れだと思うので。わたしといるときは甘えてもらえたらなと」
桂「甘えていますよ?」
蒼「そうでしょうか」
桂「はい」

蒼M「好き勝手しているようで、いつだってわたしを思いやってくれているのだ」

桂「当たり前のことをしているだけです」
蒼「実はわたし。尽くされるより、尽くしたいタイプなんです」
桂「おっと。それは知りませんでした」

   桂、料理を完食。

蒼「そりゃあ。こんな情報、誰からも聞けませんし。桂さんだけが知っていればいいことですからね」

   蒼、照れ笑い。

桂「……どうしてそんなに」
蒼「え?」

   桂、蒼を抱え寝室へ連れて行く。

蒼「い、いきなりすぎます」
桂「今夜はするつもりなかったんですけど。誘惑に負けました」
蒼「してませんけど!?」

   桂、蒼を愛撫。

蒼「……っ、するつもりなかったっていうのは?」
桂「そろそろ蒼さんの体力が限界ではないかと」
蒼「気にしていたんですね」
桂「そりゃあ。大切ですから。今夜はやめておきますか?」
蒼「本当に無理だと思ったら。ちゃんと伝えますので。大丈夫、です」

蒼M「とにかくぶっ飛んでるし。一緒にいればまだまだ恥ずかしい思いをさせられそうだけど、わたしのことを、永遠に愛してくれそうな気しかしない」

桂「蒼さん」

   桂、人差し指と中指の間にコンドームを挟む。

蒼M「マジシャンか!!」

蒼(どっから出したの)

桂「必要ですか?」
蒼「え……」
桂「できたら困りますか」
蒼「…………」
桂「私は、正直なところ。想像してしまいます。貴女と私の子供のことを。とても尊いだろうなと。蒼さんによく似た女の子なんて産まれたら。それはそれは………………やばいなと」

蒼(今の間はなに?)

桂「なんて話は。プレッシャーですかね。もちろん、無理には望みません」
蒼「そこは、わたしじゃなくて桂さんに似てくれた方が美形になるから嬉しいのですが」
桂「!」

蒼「……子供が嫌いってわけではないんです」
桂「ええ。そうでしょうね」
蒼「!」
桂「見ていてわかりますよ」
蒼「……わたしが言うのも生意気ですが」
桂「どうぞ」
蒼「出産も、子育ても。めちゃくちゃ大変じゃないですか。……実体験ないのに語るのは筋違いだとは思います」
桂「いえいえ。聞かせて下さい」
蒼「命がけで産んで、命がけで育てて。よくできるなって本当に尊敬しますし。感動もします。だからこそ自分がそんな重要なことを。人間の人生を面倒みるなんてこと、できるのかって。考えると……自信がないです」

蒼M「そんなわたしは母親になる資格がない。いくら、欲しいと思っていても。いっときの感情でなれるものじゃない」

桂「蒼さんは、命を重く受け止めているのですね」
蒼「当然です。だから、絶対に避妊はしたいですし。それでも100%ではないので。……どこかで怖いと思っています」
桂「姉が、結衣を産むときに」
蒼「!」
桂「こんなことを言っていました。お腹の膨らみとともに母親になる自覚が芽生えた、と」

蒼M「……え?」

桂「最初から母親になれている人など、いないのではないでしょうか。産む覚悟を決め、育てていく環境を用意していても。きっと成長するのは子と一緒になんじゃないかと。私は姉を見てそう感じましたね」
桂「……そう、ですか」
桂「はい。もちろん父親だって。家族だって、夫婦だって。スタート地点がゴールなんて考えでは進みようがない。あまり難しく考えずに、守りたいものを守りながら一緒に同じ方向を向いていれば。あとはなるようになる気がします」

蒼M「ああ、どうしてこうも桂さんの言葉は心に響くのだろう。
 こんなにも捻くれてしまったわたしの内側まですっと浸透してくるんだ」

桂「お風呂に入ってきます」
蒼「!」
   
   桂、身を起こす。

桂「汗、流してきますね」
蒼「どうせかくのに」

   蒼、桂のシャツを掴む。
   桂、目を見開く。

蒼「今は……そこまで必要でも、ないです」

   蒼、コンドームを返す。
   桂、蒼を見つめる。
   蒼、赤面。

桂「いいんですか?」

蒼M「思い描けなかった誰かとの未来が。
 こんなにも簡単に描けてしまう。
 桂さんとずっと一緒に暮らしたいし、できるものなら子供だって欲しい」

蒼「男の子だったら。やっぱり蒼一ですかね」
桂「(放心)……ママを二人で取り合います」
蒼「大人げないです」
桂「式はいつ?」
蒼「わたし、盛大に祝われるのは苦手なんですけど」
桂「だったら二人きりでひっそりあげますか」
蒼「桂さんの家柄じゃ、そういうわけにもいかないんじゃないですか」
桂「いいえ? 姉が大きく祝われていましたからね。まったく問題ないでしょう」
蒼(ボンクラ息子!!)

蒼「……わたし。死ぬまで桂さんに振り回されるんだろうな」

   蒼、赤面。
   桂、蒼を力強く抱きしめる。

蒼「っていうか。桂さんは。もうダメですね」
桂「はい?」
蒼「だって。わたしも桂になるなら。名前で呼ばなきゃ」
桂「…………」
蒼「恭一さん」

   桂、蒼を押し倒す。

桂「振り回してるのは。どっちですか」
蒼「え?」
桂「心臓破裂するかと」

   蒼、桂の胸に手を当てる。

蒼「……ほんとだ。すごく、ドキドキしてますね」

   蒼と桂、笑い合う。


(第二十話 おわり)
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