桜 夢 (オウム)
「なんでもこの村の名士のお屋敷らしいんですけどね。そこの旦那さんと奥さん、揃って病気かなにかで若くして死んじゃったらしいんですよ。で、今は残された娘さんがひとりであの屋敷に住んでるそうなんですけど」

そこで信山は一息つくと、にたりと笑った。

不快なその笑顔に、なぜか胸騒ぎがした。

「…ええ」

「その娘ってのが、まだ高校生なんですけどね、ビックリするほど美人で色気があって、たまらんのですわ。はじめて彼女を見かけたときなんて、私もう、立ち尽しちゃいましたよ」

脳裏に浮かぶ、白い微笑。

「あなた、もう会いました?」

「い、いいえ」

なぜか否定してしまった。自分の血圧が上がっていくのがわかる。

「そうですか。見たら驚きますよ。あれは一見の価値ありです。あんな美少女は、テレビでも見ませんよ。そこらへんのアイドルなんか足下にも及ばないってくらい。正直私、彼女見てからこっち、桜なんてどうでもよくなってますもん」

「そんなに、ですか」

「すごいです。でね、私、考えてるんですよ」

「なにを」

胸騒ぎはどんどん大きくなる。

一体どうしてこんなに動揺しているのだ。
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