桜 夢 (オウム)
桜の木は今日も雄大にそびえたっていた。

だが私は、昨日ほどこの光景に心奪われることはなかった。すでに私の中には、他のものが入り込み一分の隙もないほどに充満していた。

知らず、あの窓から見た屋敷へと向かっていた。

近くで見ると、その屋敷は本当にりっぱなものだった。門の前で私は立ち尽す。

どうしようと言うのか。

インターホンを鳴らして、信山さんいますかとでも尋ねるつもりか。

そのまま突っ立っていると、

「どうか、しましたか」

ふいに背後から話し掛けられ、飛び上がった。

振り向くと、そこには昨日と同じ微笑をたたえた、白い顔。

私を見ている。

二つの意味で眩暈がした。

あらためて見る少女の美しさと― その少女に対する自分の行いに。

昨日に引き続き、今日は家の前での不審な行動。これで待ったなし、完璧な変質者だ。

世界が終わってしまったかのような絶望に襲われた。

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