桜 夢 (オウム)
足元を見下ろす。
落ちた花びらと幹からの光でよくわからないが、私の立っているこの場所だけ、地面の色が違わないか。
つい最近掘り返したかのように。
「どうしたの?」
薄桃色の風の向こうから、彼女の声。
顔が見たい。
「彼を、どうして…」
「彼。なんのこと」
「信山…」
「あら、だって…」
くすぐったいような笑い声。
「それは、あなたが・・・」
突風が彼女の言葉を掻き消す。
大量の花弁に目を、耳をふさがれ、自分がどこに立っているのかさえあいまいになる。
意識と、
場所と、
時間と、
幻と、
現実が甘く溶け合う。
その中で。
私は、少女を組み伏せていた。
少女の潤んだ瞳。上気した頬。吐息。私と少女を覆う花弁。
そして―
暗やみの中、
私は、
穴を掘っている。
これは、なんの記憶だろう。
彼女の私を呼ぶ声。
目を開ける。
ああ、これは。
彼女に答えようとするが声はすべて掻き消され、やがて彼女も見失い、私はむせかえるような香りに包まれたまま、また我を失う。
-終-
落ちた花びらと幹からの光でよくわからないが、私の立っているこの場所だけ、地面の色が違わないか。
つい最近掘り返したかのように。
「どうしたの?」
薄桃色の風の向こうから、彼女の声。
顔が見たい。
「彼を、どうして…」
「彼。なんのこと」
「信山…」
「あら、だって…」
くすぐったいような笑い声。
「それは、あなたが・・・」
突風が彼女の言葉を掻き消す。
大量の花弁に目を、耳をふさがれ、自分がどこに立っているのかさえあいまいになる。
意識と、
場所と、
時間と、
幻と、
現実が甘く溶け合う。
その中で。
私は、少女を組み伏せていた。
少女の潤んだ瞳。上気した頬。吐息。私と少女を覆う花弁。
そして―
暗やみの中、
私は、
穴を掘っている。
これは、なんの記憶だろう。
彼女の私を呼ぶ声。
目を開ける。
ああ、これは。
彼女に答えようとするが声はすべて掻き消され、やがて彼女も見失い、私はむせかえるような香りに包まれたまま、また我を失う。
-終-