彼、
雨が止んだのは一ヶ月後の事だった。
その間彼は草を食べ、雨を飲み生きていた。
ギリギリで生きていた。まだ生きていた。
「なんで僕は生きているのでしょうか。
必死になって、人間の体で、生きたいと思っているのでしょうか。」
彼はあの水場に行こうと山を少し下り始めた。
そして気が付いた。
辺りが水に沈んでいた。
人間が住んでいた場所は殆どが水の下沈んでいた。
そして、人間から彼ともう一人だけが残った。
彼は何度も死のうと試みた。
が、その度に奇跡が起こり、生き延びる。
死ぬことはない。
彼は笑いながら、
「やはり私の天命は人間として苦しめという事ですね。
僕は人間を愛しています。憎んでいます。
だからこそもう終わりにしたいのです。
人間を残したくないのです。」
今までで一番取り乱した彼だった。
そして今までで一番清々しい顔をした彼だった。
彼の肩には鳥がとまり、
足元には野うさぎや沢山の虫がいた。
「皆さんこれからよろしくお願いします。
そしてありがとうございます。」
穏やかにそう言った。
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