愛され女子になりたくて
side 青山
何とかトラブルを終息させて帰ってくると、佐藤さんの席が空になっていた。
「神凪(かんなぎ)さん、佐藤さんは?」
他の事務の子に聞いたら、
「佐藤さん、昨日付けで二課に異動したんですよ」
聞いてないぞ、どういう事なんだ?
イキナリの展開に、気持ちが追いついていかない。
彼女を大事にしようと思っていた矢先に、異動だって?
課長の所へ、事情を聞きに行った。
「課長、どういう事ですか?佐藤さんが二課に異動って・・・俺は何も聞いて無いんですけど」
課長に促されて、会議室に入った。
「佐藤さんの異動については、上の判断だ。私も残念だけど、二課の現状は聞いてるだろう?事務の子が続けざまに産休や退職して、中野が、思うように営業に出れず、内勤ばかりして、成績が上がらない。さすがに中野が痺れを切らして、部長に直談判したんだよ」
「それで佐藤さんなんですか・・・」
「佐藤さんは中野が教育してたし、担当のお前も成績が良い。それに、ウチの事務はベテランが揃ってるし・・・な。人事も承認した正規の異動だから、俺も反対は出来なかったよ」
「・・・そうですね。残念です」
「まぁ、以前の様にお前なら成績が取れるって、評価されてるんだからな。頑張ってくれよ」
「わかりました」
課長の後に会議室を出て、喫煙所に立ち寄った。
何となく、営業フロアに戻りたく無かったのかも知れない。
以前の俺は、萌香ちゃんの顔を見るために好きでもない煙草を吸いに来ていた。
今は、何となく煙草が吸いたい気分だ。
喫煙所には、企画課の東海林課長がいた。
「おっ、まだ吸ってたのか。俄スモーカーじゃなかったんだな」
ニヤリと笑みを浮かべる東海林課長に、
「・・・まあ、そんなとこです」
と、力なく答える。
「・・・失って初めてわかるんだよ、大事なものってヤツはさ。お前、花菜美ちゃんがどれだけ気をつかって仕事してたか、知らないだろ?」
「どうして、東海林課長が知ってるんですか・・・」
「花菜美ちゃんの行動を見てれば、わかるんだよ。だから、中野が花菜美ちゃんに執着するんだ。確かに、二課の現状は酷いがな。異動は彼女じゃなくても良かったんだよ」
「それ、本当ですか?」
「裕一(ゆういち)から、聞いてたんだ。最初は神凪さんが候補だった。中野が花菜美ちゃんが一番使い易いって、部長にかなり働きかけたらしい。この半月程、事務の子たちは査定されてたんだ」
確かに、桜葉部長と同期の東海林課長が桜葉部長本人から聞いていたなら、本当なんだろう。
「青山は、効率を重視するタイプだが、中野は、育てて使うタイプ。その中野に教育されてる花菜美ちゃんが、他の事務の子を、育てられない筈ないだろ?一課の事務は育てる段階が既に終了しているから、二課の人材を育てる事を上は彼女に期待してるんだ」
東海林課長が言ってる事は、的を獲ていて反論出来ない。
確かに、部下になった彼女は即戦力だった。
中野さんと俺の違いは、そこなんだな・・・。
「青山、時期を待てよ。時期が来れば、お前にもチャンスが来る。その時に、モノに出来るかは、これからのお前次第だよ」
そう言い残すと、東海林課長は部署に戻って行った。
チャンスは、俺次第・・・。
そうだな、いつだってチャンスをモノにしてきたんだ。
次は絶対に逃さない。
佐藤さんを取り戻す為に、今の俺が出来ることをしよう。