無敵の総長は地味子ちゃんに甘すぎる



『おいっ、そこでなにをしてるっ......!』


別の男のひとの声に、一瞬だけ腕の力が緩んだ。

これが最後のチャンスだ、と思った。


残る力ぜんぶを振り絞って腕から抜け出すと、そのまま地面に落ちていく身体。


『チッ、サツが....っ』


『っ、まて....!』



焦ったように顔を歪めて、去っていく男のひと。


その拍子に舞った砂ぼこりに、ごほ、と咳をしようと息を吸い込むけど、うまくできない。


目の前が真っ黒で、なにも見えない、聞こえない。


ひとつだけ、頭にこびりついて離れないもの。


首を絞められる前、シャツの隙間から覗いた''黒い竜''─────に、すべてを奪われたような、そんな気がした。









「っ、ぁ.....っ、」



そう、だ。


私のことを誘拐しかけた男────それが、''香山達二''だ。


あのときは、警察のひとが駆けつけてくれたから助かったけど.....、もし、誰も来なかったら。


わたし、は─────


「っ、は....っ、ごほっ、」


ぞわ、と背中を走る冷たい感触。


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