無敵の総長は地味子ちゃんに甘すぎる
『おいっ、そこでなにをしてるっ......!』
別の男のひとの声に、一瞬だけ腕の力が緩んだ。
これが最後のチャンスだ、と思った。
残る力ぜんぶを振り絞って腕から抜け出すと、そのまま地面に落ちていく身体。
『チッ、サツが....っ』
『っ、まて....!』
焦ったように顔を歪めて、去っていく男のひと。
その拍子に舞った砂ぼこりに、ごほ、と咳をしようと息を吸い込むけど、うまくできない。
目の前が真っ黒で、なにも見えない、聞こえない。
ひとつだけ、頭にこびりついて離れないもの。
首を絞められる前、シャツの隙間から覗いた''黒い竜''─────に、すべてを奪われたような、そんな気がした。
◇
「っ、ぁ.....っ、」
そう、だ。
私のことを誘拐しかけた男────それが、''香山達二''だ。
あのときは、警察のひとが駆けつけてくれたから助かったけど.....、もし、誰も来なかったら。
わたし、は─────
「っ、は....っ、ごほっ、」
ぞわ、と背中を走る冷たい感触。