無敵の総長は地味子ちゃんに甘すぎる



『良い眺めだ。蒼唯未桜』



香山に押し倒されたとき、わざと抵抗しなかった。


....顔を近づけられたときはさすがに気持ち悪くて、ぎゅっと目を瞑ってしまったけど。


諦めたふりをして、香山に隙ができるタイミングを見計らっていたの。


『....どうせ、最後だからひとつだけ教えてください』


『────8年前、私を誘拐しようとしたのは、あなたですか?』



服を脱がすことだけにしか意識を向けていない香山に、今だ、とずっと閉じていた口を開いて、問いかけた。


....このひとと言葉を交わすのは最後だから、と思って真っ直ぐと香山の瞳に視線を向けても、重なることはなくて。


乱れている服をまくり上げながら、香山は至極楽しそうな、歪んだ笑みを浮かべた。


鎖骨に刻まれた竜が、ぐらんと揺れる。


そうして紡がれた、セリフ。



『そうだ。蒼唯未桜、お前を傷つけたくて、オレがやったことだ』





香山の言葉が終わるのと、私が縛られている手を左耳に伸ばしたのは──────ほぼ、同じタイミングだった。



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