夜明け3秒前
心がぽかぽかしていると、流川くんが近づいてくる。
緊張して固まっていると、顔を覗き込まれた。


とても心配そうな目と視線が交わる。


「凛月、ちゃんと眠れてる?顔色悪くない?」


今までもきっと気づいていたんだろうけれど、こうして口に出して聞かれたことはなかった。
ドキッとして視線をそらす。


「……眠れてるよ。心配してくれてありがとう」


嘘じゃない。
前よりも眠れているのは事実だし、ただ酷い夢を見るだけであって。

彼を安心させるために笑う。
だけどやっぱり、上手くできていない気がする。


「……凛月」


流川くんが眉をひそめて、何かを言いそうになったとき。


「お待たせ、さあ朝食にしようか」


オムレツとポトフをトレーにのせて、清さんが持ってきてくれた。
できたてほやほやで美味しそうだ。

流川くんは何か言いかけた口を閉じる。
表情は晴れていないけれど静かに席に座った。


私も座ると、清さんが目の前に朝食を並べてくれる。
一通り準備が終わると、みんなで手を合わせて挨拶をした。

ポトフを一口食べる。
温かくて美味しい。

でも、飲み込むのが辛い。
いい匂いがするのに、味も美味しいのに、最近ずっと食欲がない。

食べたいのに、食べられない。
だけど残すなんてできなくて、スローペースだけど食べ進める。


「凛月さん、無理しなくていいからね」
「……いえ、美味しいです」


清さんは、またにこっと微笑む。
無理なんかしてない。

全然、こんなの無理なんかじゃない。
あの家に比べたら、ううん、比べるのもおこがましいくらい優しいところなのに。
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