夜明け3秒前
ぽちゃん、と音を立てて湯船に浸かる。
頭も体も綺麗にしたら、心もスッキリした気がする。


このままこの暗い気持ちも流れてしまえばいいのになって、何度願っただろう。
実際はそんなことできなくて、自分で解決するしかない。


「……綺麗に治ったなあ」


濡れた腕を伸ばす。
たくさんあった痣もほとんど治った。

まだ残っているものもあるけれど、もう色は薄い。
約一週間後にあるパーティーのときには、きっと綺麗になっているはずだ。


不思議だな。
こんな綺麗な腕、私じゃないみたい。


痣の心配もせずにあのドレスを着ることができる。
それだけじゃない。

半袖だって、オフショルダーだって、水着だって着られる。
そうだ、ずっと憧れて遠かったものを……私が?

着てどうするの、どうなるの。
可愛くない私がおしゃれして誰が喜ぶの。


「……っ」


こんな綺麗な肌、私じゃない。
違和感しかない。

私は生まれてくる資格のない人間で、悪い子で。
こんな、綺麗な体じゃダメだ。


罰さないと、傷つけないと……!


「凛月ー!もう2時間近く入ってるけど、起きてる?」

「……っ!」


流川くんの声だ。
はっとして、手から力が抜ける。


私、何して……

息が荒い、暑い、頭がくらくらする。
さっき流川くん何て言ってたっけ……


「凛月ー?」


また名前が呼ばれて、意識がさっきより少しスッキリする。


「……流川くん。ごめん大丈夫……上がるね」


ゆっくり立ち上がる。
それでもやっぱりくらくらした。
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