夜明け3秒前
どうしたらいいかわからなくなっていると、彼は優しくなだめてくれた。


「いいよ、急に全部話せって言われても話せないよな。じゃあさ、その前に俺の話聞いてくれない?」

「……うん」


寂しそうな顔。
私が頷くと、その表情のまま笑うから、感情が引っ張られそうだ。


「……俺、姉ちゃんがいるんだけどさ」
「えっ、そうなの?」


初めて聞いた。
学校の人たちからも、清さんからも、流川くんにお姉さんがいるなんて聞いたことがない。


「うん。実は最初に女装したの、姉ちゃんがきっかけなんだ。小さい頃、メイクとか着せ替えとか、そういうごっこ遊びにはまってさ」


彼は懐かしそうに目を細める。
きっといい思い出なんだろうな。


「すっげー優しい人なんだ。他人が悲しんでたら自分まで泣いちゃうような人で」


うん、と相槌をうつ。


「じいちゃんたちの仕事に憧れてて、大人になったら継ぐんだって言ってた。でも……」


彼の声はとたんに暗くなる。


「好き勝手に言う大人がいてさ。『女が継ぐなんてありえない』とか……ほかにももっと酷いこといろいろ」


彼は苦しそうに奥歯を噛む。
そっか、と納得してしまう。

確かにそういう大人が、自分の身の回りにいる。
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