夜明け3秒前
「父さんたちは気にするなって姉ちゃんに言ってたけど、姉ちゃんそれで悩んじゃってさ……ずっと部屋にこもって、ろくに会えてないんだ、俺。ずっと」


その話を聞いて、一番に頭に浮かんだのは自分の兄だった。
私もほとんど会っていない。

流川くんのお姉さんとは違って、家に帰ってこないからだけれど。
それに、私はその理由までは知らない。


「すっげー心配で、扉越しに話しかけたり、毎日連絡したりしたけど、返ってこない」


うん、と頷く。
相槌、というよりも共感だった。


「いつの間にか連絡するのもやめてさ、姉ちゃんと関わることがなくなった。今だって心配だけど、しつこく話しかけ続けるのも嫌われるかもしれないって思うと、急に怖くなって」


彼の声は苦しそうだった。
いつも私を励ましてくれていた流川くんも、ずっと悩んでいたんだ。


「……じいちゃんのパーティー、姉ちゃんが行かなくなっても1人で行ってたんだ。でも、『お姉さんはどうしたの』って聞かれて、どう言ったらいいかわからなくて」


彼の今の話を聞いて、『一緒に出てほしい』と言っていたときのことを思い出す。
あのとき寂しそうな顔をしていたのは、お姉さんが理由だったのかな。


「本当のことは言えないし、かといって誤魔化し続けるのにも限界があって……だから、俺が女装して姉ちゃんのふりでもしたら、なんて馬鹿みたいなこと考えてさ」


はは、と自嘲気味に笑う流川くん。
私は笑うことなんてできなかった。
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