夜明け3秒前
「……姉ちゃんに元気出してほしい。会って話して、また前みたいに戻れたらいいのに」

「……うん」


その気持ちは痛いほどわかった。
無理だって理解しているけれど、私も前みたいに、おまじないを教えてもらったときに戻ることができたら……


「……やっぱ、嫌われたかな……俺、どうしたらいいかな」


ぽつりとこぼされた言葉に戸惑った。
いつも私を引っ張ってくれている彼が、私を頼ってる?

いや、どちらかというと独り言に近かったのかもしれない。
でも。


「……もう一回、連絡してみない?」
「え?」


言葉がぽんと出てきた。
驚いて私の方を見た彼と目が合う。


「でも、一回も返ってきたことないんだよ?それに、今更何て送ったらいいかわからないし……」


流川くんの顔が苦しそうに歪む。
確かに、彼がそう思う気持ちもわかる。

私が彼の立場だったら絶対にそう思うだろうし、きっと勇気もでない。
自分にとって大切な人に嫌われるかもしれないというのは怖いものだ。


だけど。


「流川くんはお姉さんに嫌われてないと思う」
「……え?」


自分でも驚くほど、ぽんぽんと言葉が出てくる。
意見を言うのも励ますのも慣れていないのに。


「流川くんはすっごくいい人だし、嫌われてるなんて想像できない」


もちろん彼も人間だし、100人中100人に好かれるなんてことは無理かもしれない。
でも、少なくとも彼は学校じゃ一番の人気者だ。

そんな彼が家族であるお姉さんに嫌われる可能性なんて、限りなく低いんじゃないかと私は思う。
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