夜明け3秒前
「……私」


唇が震える。
手を強い力で握った。

「……私、生まれてこなかった方がよかったんじゃないかって」


すぐ隣にいる彼の空気が、ピシッと張り詰めたのがわかった。
背中をなでていた手が止まる。


「お母さんによく言われるから、わかってるの。でも、ここに来てから……このことを思い出したら……」


何て言ったらいいのかわからない感情に襲われる。
痛い、苦しい、辛いなんて言葉じゃ表せない。


「……ごめんなさい、私、やっぱり」
「そんなことない!」


流川くんの声で、またどこかへ沈んでいくところを助けられる。
彼を見ると私よりも辛そうだった。


「そんなことないよ」


いつもの優しい声だったけれど、強い意志を感じる言い方だ。
ずっと静かに聞いてくれていたのにここでは否定するなんて、本当に優しいんだな。


「俺、凛月に会えて、旅行に来れてよかったって思ってる。そんな悲しいこと言わないで。友利だって悲しむよ」

「……ごめんなさい」


謝ると、彼ははっとした顔をして慌てる。


「あーっ、違う、ごめん。凛月は悪くないよ。そうじゃなくて、んー……」


流川くんは考え込む。
違うのに、私が悪いのに……なんて言ったら、彼はまた悲しそうな顔をしてしまうんだろうな。
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