夜明け3秒前
ガタン!
思わず目を閉じたあと大きな音がした。

衝撃にそなえて体に力を入れたけれど全然痛くない。
あ、あれ……?

不思議に思って目を開けると、視界には流川くんが映っていた。
鼻息が当たってしまうんじゃないかってくらい、すごく近い距離。

私は床と流川くんにサンドイッチされているような状態だった。
もしかして、彼が私のことを助けてくれた……?


「……怪我はない?」
「う、うん……」


それだけ言うと沈黙が流れる。
体は金縛りにあってしまったみたいに動かないし、流川くんも私をじっと見つめているだけだ。

ドキドキだけじゃ言い表せないくらい心臓が脈打っている。
顔が熱いのが自分でもわかって恥ずかしい。


すっと彼が動いたかと思うと、右手の親指でツーっと唇をなぞられる。
そんなとこ触られるなんて不思議な感覚で。


「……る、かわくん……」


彼の名前を呼ぶけれど、止まってくれない。
いつもみたいに笑ってくれない。

それどころか。


「……凛月」


熱っぽい声で名前を呼ばれて胸がきゅんとなる。
優しい眼差しじゃない、どこかギラギラしている目。

そんな目で見られたら呼吸ができなくなって。
背筋がゾクゾクして、逃げられなくなる。

だけど。


「る、流川くん!」
「……っ!」
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