夜明け3秒前
「……流川くん?」
「え……あ、ごめん、痛くなかった?」
「う、うん大丈夫」


彼はすぐに手を離してくれた。
だけど表情はいまいち晴れないままだ。

まるで私の腕を引っ張ったことに自分で驚いているみたい。
一体どうしたんだろう。

なんて声をかけたらいいのかわからず困っていると、金城さんとまた目が合う。


「へーえ?なるほどねえ……」


にこにこ、というよりもニヤニヤした顔で私たちを見ていた。
さっき一歩離れた分近づいてくると、ポンと小さな紙を渡される。


これって……名刺?
ちゃんとしたものなんて、初めてもらった……


「気が向いたら連絡して?」
「え?」


展開についていけなくて固まっていると、その緊張をほぐすように微笑まれる。


「千那のこともっと知りたくなったとき、とかね」

「え!?」


流川くんには聞こえないくらいの小声で言われて心臓が跳ねる。
自分の心を見透かされた気がして顔が熱くなった。


「おい、潤!」


すぐ隣で流川くんが声を上げると、金城さんは笑って距離をとる。


「はいはい、悪かったよ。じゃあね凛月ちゃん」


ぺこりとお辞儀をすると、ひらひらと手を振られる。


「千那も、たまには連絡しろよな。じゃあな」


流川くんの肩をポンと優しく叩くと、彼の返事も聞かずに行ってしまった。
最後の言葉、まるでお兄ちゃんみたいだったな。

瞳も慈愛に満ちているように見えた。
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