夜明け3秒前
「何かいいことあった?」


顔を覗き込まれて心臓が跳ねる。
だけどできるだけ平常心を装って彼の問いに答えた。


「うん、たくさんあったよ。」


麻妃と電話できたことも、初めて人を好きになったのも、こうしてその人のそばにいれることも、全部いいことだ。
幸せだなあって、この気持ちを噛みしめる。


「流川くんって何でも気づいてくれるね。悩んでるときも、いいことがあったときも」

「何でもってことはないけど……凛月はわかりやすいから」

「えっ、そうかな!?」


驚いて声をあげると、ははっと笑われる。


「凛月が楽しそうでよかった。夏休みもあとちょっとだし、少しでも楽しんでほしいって思ってたからさ」


彼の言葉を聞いて心がぽかぽかする。
誰かにこういう風に思ってもらえるってすごく嬉しいことだ。


「ありがとう、流川くんのおかげですごく楽しい。学校が始まっても……家に帰っても頑張れそうだよ」


ここでの生活があったおかげで、頑張る気力が湧いてきた。
一筋縄ではいかないと経験でわかっているけれど、今では真っ暗の中、優しく光る希望が見える。


だから安心してね、と彼に伝わるようにぎゅっと握りこぶしをつくって微笑む。
だけど流川くんは少し寂しそうに口元を緩めた。
< 152 / 192 >

この作品をシェア

pagetop