夜明け3秒前
たぶん、たぶんだけど、彼が言いたいのはそういうことじゃないってわかってる。
でもそれじゃ、私に都合がよすぎて。


勘違いしたまま声に出したら恥ずかしいと思って、早口でまくし立ててしまった。
ど、どうしようこの空気……

甘いような、でも気まずいような空気が流れている。
もっともそう思っているのは私だけかもしれないけれど……


すうっと小さく息を吸う。
言っちゃえ、と口を開いた。


「……寂しい」


ぽつりと独り言を言うみたいに小さい声になってしまった。
恥ずかしいけれど、相手に伝わるように言葉をつないでいく。


「私も流川くんと同じで……寂しいよ」


そりゃあ当たり前だ。
この温かくて幸せな生活が続いたらいいのになんて何度も考えた。

チラッと彼の方を見ると、「そっか」と嬉しそうに目を細める。
なんだか言わされたような気がして少し悔しい。


でも、彼も自分と同じ気持ちなのだと思うと嬉しくなってしまう。


「寂しいけど……寂しいって思えるくらい素敵な生活をさせてもらったから、夏休みが終わっても頑張るね」


流川くんは「うん、俺も」と、いつもの優しい表情で返してくれた。
やっぱり彼は強いなあ。

もちろん弱いところもあるだろうし、私がわからないだけで彼の言う通り弱くなった部分もあるのかもしれないけれど。


でも私にとって彼は変わらず、布団とコーンポタージュみたいな優しさと、強さを持っている人だ。
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