夜明け3秒前
「流川くん!?ここ、人がいっぱい……」


彼の香りに包まれながら、耳にはきゃーきゃー言っている人の声が聞こえる。
恥ずかしいのと嬉しいのと切ないのと……いろいろな感情がぐるぐると洗濯機のように回って苦しい。


「ん、ごめん。なんか凛月が泣いてるの見たら抱きしめたくなって」

「えっ!?」


そ、それはどういうこと……?
全然理解できていないけれど、好きな人に抱きしめられるのはすごく安心する。

そういえば、前もこうして彼に抱きしめてもらったな。
あのときはそのまま寝落ちしちゃったんだっけ……


今思い出しても恥ずかしい……


うーんと心の中で唸っていると、流川くんにくいっと上を向けさせられる。
すぐそこに彼の顔があって、心臓が爆発するんじゃないかと思うくらいドキドキし始めた。

こつん、とおでことおでこが触れ合ってますます脈拍が速くなる。
それなのになぜか彼の目から視線をそらせなかった。


「泣くの我慢しなくていいよ。泣き止むまで俺がそばにいるから」


低くて優しい声音に、柔らかい視線、温かい言葉。
自分がそういう意味で愛されているのではないかと勘違いしそうなくらいだった。


どうしてそんな、私が欲しいもの全部くれるの。
ドキドキしてたまらないのに、こんなにも安心する。


「好き」って……声が、気持ちがこぼれてしまいそう。


「……る、かわくん」


あれ、とふと気づいた。


「と、とまった……かも」


くいくいと目元を確認しても涙はもう出ていない。
流川くんは少し固まったあと、ははっと力が抜けたように笑った。


「よかった」
「う、うん……ありがとう」


磁石が急に磁力をなくしたみたいに彼がそっと離れていく。
まだくっついていたいなんて考えてしまって、自分が一番驚いた。
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