夜明け3秒前
「じゃあ海にでも入る?」
「えっ、でも水着持ってないよ?」


持ってきたらよかったなあ。
あ、でも……と考えてはっとする。

そうだ、今は痣も傷もないんだった。
それならなおさら持ってきていないことを悔やむ。


「うん、だから……足だけ」


流川くんはズボンの裾をまくり上げて、靴と靴下を脱いでぽちゃんと海に入った。
足首の部分まで浸かる。

私も同じようにして、そろりと海に足をつけた。


「冷たい!」


びっくりして声をあげてしまった。
そ、想像していた以上に冷たい……!

流川くんは私の反応を見て楽しそうに笑っていた。
ちょっと恥ずかしいけれど、彼が笑っていて私も嬉しくなる。


波がざぱーんざぱーんと繰り返し砂を攫う。
海って本当にいい音がするんだなあ。

手で海水をすくって、そのまま手からこぼれ落ちる。

不思議だなあ……
海も、波も、空も全部。


私が疑問に思っていることはきっと、全部科学的に説明することができるんだろうけれど。
すごいな、この世界って。


私が一生をかけて勉強したって、この世界のすべてを知ることなんてきっとできない。
それくらい世界は不思議で、とても広い。


「流川くん、私海に来れてよかった!」


私の知らない世界はとても素敵だってことを知れたから。
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