夜明け3秒前



「ふう……」


ため息に近い息の吐き方をしてしまって、隣を歩いていた流川くんが心配そうに声をかけてくれる。


「疲れた?もしかしてしんどい?」

「え、ううん違うの!全然元気だよ。ただ、いろんなことがあったなあって思って」


確かに長い一日だったけれどすごく楽しかったし。
どちらかというと、ドキドキしたり感動したりちょっと悲しくなったりで、精神的な方が慌ただしかったな。


トントンと靴音を鳴らしながらホテルの廊下を歩いていると、流川くんの表情が少し曇る。


「……確かに。なかなか帰ってこないと思ったらナンパされてたしな」

「えっ、いやあれはそんなんじゃないよ。ただ大浴場まで案内してくれないかって言われただけで……」


彼の口調が少し不機嫌に聞こえて焦る。



海で遊んでホテルで夜ご飯を食べた後、お手洗いに行ったときに声をかけられたときの話だ。
20代くらいのお兄さんが道に迷ったみたいで、『お姉さん、大浴場ってどっちかわかる?』と聞かれた。

ホテルは広いし、道に迷ってしまう気持ちもわかる。
幸運なことに私は道がわかっていたから、口頭で案内したんだけれど……


『口で言われてもわかんないから直接案内してくんない?』と言われて。

私は流川くんを待たせてしまっていたから、一言声をかけてからにしようとしたところで彼が迎えにきてくれた。
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