夜明け3秒前
「……わ、わたし、わたしは……」


声が震える、足が震える、手が震える。
怖くてたまらないって全身がそう叫んでる。


だけど、思い出したから。


断ってこの家にいれば、私の日常はかえってくる。
もしかしたら、もしかしたら……関係性がよくなる日が来るかもしれない。


それに楽だ。
私はここに居たいから。


だけど、向き合うって決めたから。
その勇気をもらったんだから。


両手をぎゅっと握る。
ああ、兄の前でこのおまじないを使ったら笑われてしまうかな。


息を吸って、声を出した。


「お母さん。お母さんが私のことを、少しでも愛してくれていたなら家に残ります。そうじゃないなら……おじいちゃんのところに行きます」


私がそう言った瞬間、母の泣き声が止まった。
ゆっくりとこちらを向く。


その目は何も映していなかった。
ただただ真っ暗で、まるで人形みたい。

それでも返事を待った。
きっと……きっと私が期待する返事をしてくれるって。


諦められなくて何分も待った。
だけどただ沈黙が流れるだけで、母はもう私を見ていない。


返事がないことが何よりも『愛していない』の返事だった。
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