夜明け3秒前
「……こんなことになるなんて、わたしのせいだわ」

「違う、お前のせいじゃない」


気持ちが少し落ち着いて、玄関にキャリーケースを置いていたから取りに行こうとしたとき、そんな声が聞こえてきて足を止める。


「でもっ……一徹(いってつ)が浮気してたことも気づかなかったのよ……」


お父さんが浮気?
思いもよらない言葉が聞こえてきて、盗み聞きはよくないと思いながらも足が動かない。


「だから理香子(りかこ)さんも変わってしまって……ずっと苦しかったでしょうに、わたしは……」


祖母の声はとても悲しそうだった。
もしかしたら泣いているのかもしれない。


そっと来た道を引き返す。
私は、自分が思っていたよりも家族のことを知らなかったのかもしれない。


すとん、と腑に落ちた。
だから納得したわけじゃない、できるわけないけれど。

ああ、そうか。
母も人間だったんだなって、そんな当たり前なことを思った。
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