夜明け3秒前
無心で荷物を詰めていく。
そんなに持っているものが多いほうじゃないから、あっという間に作業が終わる。

おじいちゃんに声をかけにいこう。


そう思って立ち上がったとき、

「凛月!」

と私を呼ぶ声がした。


驚いて後ろを向くと、兄が部屋の前で土下座をしていた。


「えっ……え、どうしたのお兄ちゃん!」


さっきから驚いてばかりだ。
一体何事かと近づこうとしたとき、兄が話し始める。


「ごめん!ずっと悪かった!自分が間違ったことしてるって、普通じゃないって気づいて、ずっと怖くて逃げてたんだ!本当にごめん!」


悲痛な叫びだった。
まさか自分が謝られるなんて思わなくて、何て言ったらいいのかわからない。


でもこうして謝ってくれるということは、祖父たちに話をしたのは兄なんだろうか。
それに、家に帰ってこなかった理由はそれなの?


聞きたいこと、言いたいことはいっぱいある。


「……許してくれなんて言わない。ただ……もし凛月がいいなら、オレもじいちゃんのところに行きたい」

「え?」


私だけじゃなくてお兄ちゃんも?
そんなのお母さんが許してくれるはずない。

それに謝ってくれたって、痛かった思い出が変わることも、離れていた時間が戻ってくることもないんだよ。

……なんて、なんて。
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