夜明け3秒前
1.宵
今日は母の機嫌がとても悪かった。
明日は月曜日で授業があるのに、こんなに殴られてしまえばきっと痣ができてしまうだろうな、なんて他人事のように考える。
「どうしてお皿を洗うこともろくにできないの!」
またヒステリックに叫んだと思えば、洗いかけのお皿をガシャンと投げた。
私のお気に入りだった、縁に淡い紫の模様が入ったお皿は、大きな音をたててバラバラに割れる。
もう少し母の機嫌がよければ、殴られるだけですんだかな。
ああでも、もう耳がキーンとしてきた。
このままではまた母が、「ちゃんと聞いてるの!」と殴りつけてくるだろう。
ちゃんと聞かなければ、そして謝らなければ。
「ごめんなさい。私が何もできないのが悪いです、本当にごめんなさい」
いつもの通り、おでこを床につけて土下座の形で謝罪する。
この体制にはもう慣れたけど、心の奥が痛むこの感覚には慣れない。
「あなたねえ!毎回毎回謝っても結局なおらないじゃない!」
ドンドンと壁を叩く音が聞こえる。
だめだ、逆に怒りに火をつけてしまったみたいだ。
これじゃとうぶん収まりそうにない。
もう夜もすっかりふけているのに、ご近所迷惑だ。
またコソコソ悪口を言われるんだろうな。
母はそんなこと気づきもせず、外で良い母を演じているみたいだけど。
プルルルルル……
また母が怒鳴ろうとした瞬間、電話が大きく鳴り出した。
「まあ、お義父様からだわ」
コロッと態度が変わると、母は電話をとって特有の裏声で話始めた。