夜明け3秒前
運良く祖父に助けられたみたいだ。
おかげで痣がこれ以上増えずにすんだ。
ふぅ、と小さく息をつくとそっと頭を上げる。
私の近くにはさっきまでいなかった、小学生の弟、光輝がいた。
「……きもい、こっち見んなブス」
それだけ言うとリビングを出て、自分の部屋へと戻って行った。
「はあ……」
痛い、怖い、悲しい、苦しい、そう思っても何も言葉にならない。
それくらい身も心も疲れていた。
もちろん、それを言って母に聞かれていたらまた殴られるからという理由もあるけれど。
少しふらつきながら立って、リビングの端に置いてあったちりとりと箒を手に取った。
目の前で割れてバラバラになったお皿。
私の技術じゃなおすこともできないし、新しく同じものを買うのも難しいだろう。
何とも言葉にできない暗い気持ちが、私の中をぐるぐるまわる。
自分なりに大切にしていたけれど、こんなにあっけなく壊されてしまった。
「……ごめんね」
小さい声で謝ると、ビニール袋にいれる。
そしてそのままゴミ箱に捨てた。
「ええ、はい……でも兄たちはですね……」
母はまだ祖父と話しているみたいだ。
割れたお皿も片付けたし、今のうちに部屋に戻ろう。
電話が終わったあと説教の途中で抜け出したことを怒られるかもしれないけど、明日の学校のために痣を増やしたくはない。
まあ明日は月曜日で、1週間が始まるから気休めにしかならないけれど。
「……おやすみなさい」
小さい声で呟いた。
母が私の方を見ることは1度もなかった。