夜明け3秒前
彼がこの姿で来たのは、私の母を説得させるための一つだったらしい。
駅を離れて、二人で私の家まで歩く。



「まあ世間一般的に、恋人でもない高校生の男女二人で泊まりに行くのは、あんまりよくないだろうし……そうじゃなくても、男ってだけで警戒されるだろうしね」



淡々と話す流川くんに、母に伝えるだけで精一杯だった自分が恥ずかしくなる。
そっか、そうだよね……私、何も考えてなかった。



「心配されるようなことはしないって言っても、すぐには信じてもらえないだろうから……凛月のお母さん騙すようなことになるんだけど、ごめんな」


「え、ううん!そんなこといったら私なんて……」



最後の方は声にならなくて、蝉の声にかき消される。



「流川くんの方の親御さんは大丈夫、だった?」


「うん。もうじいちゃんにも伝えたよ、凛月と行くって」



なんてことないかのように話すから、嬉しくなる。



「あー、ほんとに一緒に行くためには俺の力にかかってんだよな……女装してんのバレなかったらいいけど……」



すごく不安そうに話す流川くん。


手にはブラウンのシンプルなバッグと白い紙袋。
光の加減で茶髪にも見える、長く綺麗な髪。


ユニセックスの物なのか、シンプルな白いTシャツに茶色のパンツ。
体格を隠すためなのかはわからないけれど、薄手の上着も着ていた。


そして何より、整っている顔立ちにメイクをしていて、こんなことを言ったら複雑な顔をされるかもしれないけれど……どこからどう見ても綺麗な女性だ。


正直、最初から男ですと言われても、本当ですか?と聞き返してしまうと思う。
不安要素を挙げるとしたら……声くらいかな?


だけど、男子でも女子でも、声が高い人もいれば低い人もいるし、そこまで心配しなくても大丈夫かな。



「でも……本当に綺麗だね、羨ましいな」

「っもう!わかったから、さすがに照れる……!」


赤くなった顔を手で隠して、ぷいっとあっちを向かれる。
なんだか私までうつって、ぽぽぽっと熱くなる。



「ご、ごめんそんなつもりじゃ……!」

「はー……凛月ってほんとすごいわ……」

「え、え?」

「はは、褒めてるんだよ」



私の家に着くまでそんなことを喋りながら歩く。
不安だったけれど、流川くんとならなんとかなりそうな気がした。
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