夜明け3秒前
「さっそく本題にはいりましょう。二人で旅行したいんですってね」


「はい。私の祖父が所有しているコテージがあって。そこに凛月さんと二人で行きたいなと思ってます」



コテージ!?初めて聞く情報に驚く。
そういえば私、本当に何も知らない。



「そう……間違いだったら申し訳ないんだけれど、流川って……」


「もしかしてご存じですか?」


「ええ……実は旦那から聞いたことがあるの」



それは光栄です、とニコニコと喋り続ける流川くん。
私には何の話をしているかさっぱりわからなかっ
たけれど、そこから母の様子が変わった。


さっきまで上から見下ろしていたようだったけれど、急に私たちと同じ目線に降りてきたみたい。


そこからは早かった。
私が旅行をすることに『何を言っているの』と呆れていたような空気は消え、どんどんいい方向へと進んでいく。


流川くんの話術はすごかった。
コミュニケーション力が高いのは知っていたけど、そのときは同い年とは思えない程だった。


あの母とこうして話している。
怒らせることもなく、それどころか機嫌がよくなって、まるで魔法使いだ。


父や祖父相手にこう話しているのは見たことがあったけれど、年下相手では見たことがない。
私が話に入ったら空気を悪くしてしまいそうで、頷くことだけをしていたら、


「あなたはこれでいいわね」


と母に質問されてドキリとする。



「は、はいっ」


「そう、じゃあ決まりね。流川さん、しばらくの間、娘がお世話になるわ」


「いえ、こちらこそ」



そしてとうとう、流川くんのおかげで、私が旅行することを母に許可してもらうことができてしまった。
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