夜明け3秒前
「す、すごいね流川くん!本当にすごかった!」



話し合いも終わり彼を駅まで送る途中、私はすごいとしか言えないほど感動していた。



「はは、そこまで言ってもらえると頑張ったかいがあったな」



嬉しそうに笑うけれど、どんどん顔色が悪くなっている気がするのは私の勘違いだろうか。
思えば家を出て10分たったころから元気がなくなっているように感じる。


最初は、まだ自分と同じように緊張が抜けないのかと思ったけれど……



「流川くん、もしかして体調悪い?大丈夫、じゃないよね?」



問いかけると、彼は一瞬目を見張って、そのあと困ったように笑った。



「悪い、実はちょっと吐きそう、かも」

「え!?ごめん、私全然気づけなくて!」



周りを見渡して、すぐそばにコンビニを見つける。
店員さんに一言声をかけて袋をもらい、トイレを借りた。


流川くんは「大丈夫だから」と言って扉に入っていったけれど、素直に頷けるような表情じゃなかった。



私のせいだろうか、いや私のせいだ。



なにか少しでも恩返しがしたくて、コンビニでアイスティーを買う。


店員さんに「大丈夫ですか?」と、すごく心配そうな顔で聞かれたけれど、「すみません」としか言えなかった。



外とは違いクーラーで体を冷やされて、指先まで冷たくなりそうだ。


しばらくすると、ガラガラとトイレの扉が開いて流川くんが出てきた。
ウィッグを脱いでメイクも落としていて、服は一緒なのに一気に女子から男子へと雰囲気が変わる。



「流川くん!大丈夫?」

「うん、もう平気。ごめんな」



そう言う彼はさっきとは違い、顔色もだいぶよさそうだった。



「これ、こんなことしかできないけど、よければもらってほしい」


「え、ごめん気遣わせたよな。ありがとう」



アイスティーを渡すと、前のように嬉しそうに笑って受け取ってくれる。
罪悪感と他の何かで押しつぶされてしまいそうだった。
< 34 / 192 >

この作品をシェア

pagetop