夜明け3秒前
「コテージ近くのホテルで、毎年じいちゃんが開いてるんだけどさ、一人で行くの寂しいなーって思ってたんだ。だから凛月さえよければ、俺と一緒に出てほしい」



そう言う彼は、確かに寂しそうな顔をしていたけれど、理由はどこか違うところにあるような気がする。


私はエスパーじゃないし、そう感じただけで、あっているのか、理由はなんなのかなんてわからないけれど。



「うんっ、もちろん。で、でも私、パーティーに参加したことなんてないけど大丈夫かな……」


「大丈夫!そんな堅苦しいやつじゃないし、俺はほとんどご馳走を食べに行ってるようなもんだから」



いたずらっ子のように笑う彼の、斜め後ろをついて行く。
流川くんはこう言っているけれど、本当にそうなんだろうか……



私からしたら、まずパーティーというだけで大人というか、すごくきらびやかなイメージしかできないけれど……


でも、こんなにしてもらっておいて、お礼がパーティーに参加することだなんて。



「‟絶対に割に合わない”とか思ってない?」

「えっ、な、なんでわかったの……!」



考えていることを見透かされて、びっくりする。
本物のエスパーだ……



「ははっ、なんだかそんな気がして。でも大丈夫、割に合うから。っていうか、合いすぎるくらい」



だから大丈夫、な?と言われて、うん、と頷いてしまう。



……どうして流川くんは、私にこんな優しくしてくれるんだろう。


彼に出会ってから今まで、ここまでしてもらえる理由なんて正直ない。

もちろんありがたいし嬉しいけれど、逆の立場だったら、私はきっとここまでできていない。


彼が底なしに優しいだけなのか、それとも何か理由があるのか……
なんだかモヤモヤしていると、もう駅についてしまっていた。



少し前を歩いていた流川くんが振り返る。



「そういえばさ、友利とはどう?」



優しい声にのせられた言葉に、胸がぐっと痛くなる。
あの日から結局何もできていない私は、静かに首を振った。



「そっか。……実は、終業式の3日くらい前にさ、友利が俺のとこまで来たんだ」


「えっ?」



思いもよらない話が始まってドキリとする。
麻妃が流川くんに会いにいっていたなんて知らなかった。



「友利にすごい形相で、‟凛月と知り合いなの”って聞かれて、友達だよって答えたよ。そしたら悲しそうな顔で、‟凛月のことよろしく”って言われた」

「え……」



よろしく?
よろしくってどういうこと……?
どうして、そんなこと……



「でもそのあと、‟泣かせたら許さないから!!”とも言われたな。そう言ってる友利の方が泣きそうな顔してたけど」



話しながら微笑む流川くんも、どこか切ない表情だ。
そう感じている私も、今笑えと言われても上手く笑えないと思うけれど。
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