夜明け3秒前
2.未明
家に帰ると、母は妹と弟と話していた。
私と同じように夏休みに入った妹弟たちは、流川くんが来ていた間、部屋にいてくれたんだろう。
「ふーん、じゃあ来週の8月からアイツはいないんだ」
「よかったじゃん!それより遊ぼうよ姉ちゃーん」
どこか嬉しそうに話す莉子と興味がなさそうな光輝。
きっとそういう反応だろうなと思ってはいたけれど、実際に喜ばれると悲しいものがある。
ふと母がこちらに振り返ると、さっきまでとは違う鋭い視線が刺さった。
「あら帰ってたの。あんた、流川さんに余計なこと言ってないでしょうね」
「う、うん」
母の言う余計なこととは、どこまでの範囲のことかわからない。
でもきっと言ってしまっているだろう。
それでも目が、表情が、母が怖くて、反射的に答えてしまった。
「そう。あんたなんかが旅行に連れて行ってもらえるなんて、流川さんに感謝することね」
「……うん」
声のトーンも目線もどんどん下へと落ちていく。
母の言う通りだ。
わかってはいるけれど、心はチクチクと痛い。
だけど、ここでへこたれる訳にはいかない。
「……お母さん、お願いがあって」
小さく震える声に、自分でも情けなくなる。
でも、明日麻妃に会うためには今言うしかない。
「明日、出掛けてきてもいい、ですか?」
「何?流川さんと買い物にでも行くの?」
母はただ疑問を持っているようにも、少し怒っているようにも見える。
「……ううん、その、麻妃とです」
「何?あの生意気な女とですって?」
麻妃の名前を出した瞬間、母の眉間にしわが寄る。
一気に空気が悪くなったのがわかった。
「一体何しに行くの?」
「そ、それは……」
喧嘩をしたから謝りに、なんて正直に言ったらいけない気がして口ごもる。
『喧嘩って何があったの』『どうしてそうなったの』と聞かれたら、いよいよどうしていいかわからなくなりそうだ。
「……麻妃に、会いに」
沈黙に耐えられなくなって、あやふやな答えになった。
母はため息をつくと、「そういうことを聞いているんじゃないの!」と一喝される。
「ご、ごめんなさ……」
「謝るんだったら答えなさい!」
母が大声を出すたびに、私の心はどんどん小さくなっていく。
私と同じように夏休みに入った妹弟たちは、流川くんが来ていた間、部屋にいてくれたんだろう。
「ふーん、じゃあ来週の8月からアイツはいないんだ」
「よかったじゃん!それより遊ぼうよ姉ちゃーん」
どこか嬉しそうに話す莉子と興味がなさそうな光輝。
きっとそういう反応だろうなと思ってはいたけれど、実際に喜ばれると悲しいものがある。
ふと母がこちらに振り返ると、さっきまでとは違う鋭い視線が刺さった。
「あら帰ってたの。あんた、流川さんに余計なこと言ってないでしょうね」
「う、うん」
母の言う余計なこととは、どこまでの範囲のことかわからない。
でもきっと言ってしまっているだろう。
それでも目が、表情が、母が怖くて、反射的に答えてしまった。
「そう。あんたなんかが旅行に連れて行ってもらえるなんて、流川さんに感謝することね」
「……うん」
声のトーンも目線もどんどん下へと落ちていく。
母の言う通りだ。
わかってはいるけれど、心はチクチクと痛い。
だけど、ここでへこたれる訳にはいかない。
「……お母さん、お願いがあって」
小さく震える声に、自分でも情けなくなる。
でも、明日麻妃に会うためには今言うしかない。
「明日、出掛けてきてもいい、ですか?」
「何?流川さんと買い物にでも行くの?」
母はただ疑問を持っているようにも、少し怒っているようにも見える。
「……ううん、その、麻妃とです」
「何?あの生意気な女とですって?」
麻妃の名前を出した瞬間、母の眉間にしわが寄る。
一気に空気が悪くなったのがわかった。
「一体何しに行くの?」
「そ、それは……」
喧嘩をしたから謝りに、なんて正直に言ったらいけない気がして口ごもる。
『喧嘩って何があったの』『どうしてそうなったの』と聞かれたら、いよいよどうしていいかわからなくなりそうだ。
「……麻妃に、会いに」
沈黙に耐えられなくなって、あやふやな答えになった。
母はため息をつくと、「そういうことを聞いているんじゃないの!」と一喝される。
「ご、ごめんなさ……」
「謝るんだったら答えなさい!」
母が大声を出すたびに、私の心はどんどん小さくなっていく。