夜明け3秒前
いつもこうだ。
私が何か話したくても、母はこうして話を飛躍させる。


言いたいことはそうじゃないのに、母は私とほとんど話をしてくれない。
そして最後には、こうして怒鳴られるのだ。


ただ話したいだけなのに、私だって貴女の娘なのに。
妹や弟相手ではそうならないのに、どうして。


「どうして話を聞いてくれないの!」


気づいたら私も大声を出してしまっていた。
妹弟だけじゃなく、母も驚いたのか固まっている。


「私、今持ってる服に不満なんてないし、そんなこと言ってない!ただ、旅行なんて初めてだし、パーティーにどういう服装で行ったらいいかわからないから、麻妃に話を聞いてもらいたかった、だけ……なのに」


母たちに向かってこんなに喋ったのは久しぶりかもしれない。
そしてこんなに本音を話したことも。


心臓が今もドキドキしている。
自分が冷静じゃないことがわかる。


「……パーティーに誘われたの?流川さんに?」


母の言葉に頷く。
すると彼女はまたため息をつくと話し始めた。


「……そういうことなら私がドレスを見繕うわ。なにもあんな不細工に頼まなくたって」


プチン—と糸がちぎれた音がした。


「麻妃は不細工なんかじゃないし、生意気でもない!モデルのお仕事をしてるから、お母さんよりきっと—」


パチン!と高い音が鳴る。
頬を叩かれたんだと、3秒たってから気づく。


「なっ、何て生意気な!そ、そいつのせいね!今までみたいにハイハイ言っておけばいいのに!親に向かってなんてこと!」


母親の声は、怒りからか震えていた。
あり得ない、信じられないとうわ言のように言っている。


私は今になって冷静になり、血の気が引いた。
わ、私、どうしてあんなこと……
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