夜明け3秒前
「ご、ごめんなさい……!」


謝っても遅いと頭でわかっていても、謝罪の言葉が反射的に口から出る。
冷静になった次はパニックになっていた。


ひれ伏して謝ろうとしたとき、ピンポーンとインターホンが鳴る。
母は息を呑むと、表情がすっと戻っていった。


「莉子、光輝、部屋に戻ってなさい」


感情を読み取らせない、静かだけれど威圧感のある声だった。
ぼーっと立っていた二人は頷くと、そのまま部屋へと戻っていく。


「あんたもよ、さっさと消えて」


そう言われて何も言えず、私もその場を立ち去った。
自分の部屋へ入り扉を閉めると、母が玄関を開けた音がかすかに聞こえる。


布団にダイブするとなんだか人肌恋しい気がして、そのままくるまった。
真っ暗で、まるで自分だけの世界のよう。


……私、麻妃のときと同じようなことしちゃった。
頭に血が上って、大きな声を出して。


あのときの二人の表情、まるで私が母に怒鳴られて恐怖を感じていた顔とそっくりだった気がする。


それに、『お母さん"より"」なんて口走ってしまうなんて。
あれじゃ母が私にしていることと同じだ。


もちろん誰のことも比べずに生きていくなんて無理だけれど、あの言い方は酷かった。
あんな比べ方、叩かれて罵られて当然だ。


ああいう風に麻妃のことを悪く言う母にもムカッとするけれど、何より自分に腹が立って仕方がない。


そして、悲しくて仕方がない。
結局自分だって、あの母の娘であることに違いないんだ。


本当に、短気で嫌になるなあ……


このままじゃ、明日麻妃に会えそうにない。
謝りたいのに、言いたいことも聞きたいこともたくさんあるのに。


自分から誘ったのだから、約束は守らないと。
そう思っていたのに、いやもちろん、今もそう思っているけれど、こうしてやらかしてしまっているのだから情けない。


手も口も何かを我慢しているかのように震えているのに、涙は出ない。
何故かそれが余計に苦しくて、ぎゅっと唇をかんだ。


そしていつの間にか眠りに落ちていた。
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