夜明け3秒前
ピコン、という通知の音で目が覚める。
ぼーっと天井を見ていると意識がはっきりしてきて、それに比例するように体中が痛くなってきた。


「う、いった……」


ベッドから起き上がることさえ、体がズキズキして辛い。
最悪だと思いながら、鏡の前へと体を動かす。


顔は……うん、少し腫れている程度。
昨日すぐに冷やしてよかった。


服を脱いで下着だけになる。
腕や肩、お腹にはやっぱり痣ができていた。


足にもすこしできているけれど、これくらいなら誤魔化せる。


もういつものことだ。
今更騒ぎはしないけれど、旅行に行く直前にあんなことになるなんて、少し不安になる。



昨日、麻妃と買い物に行って帰ってくると、家の中は騒がしかった。
母がわーわーと言っている声と、弟の泣き声が玄関まで聞こえていた。


喧嘩?
でも母は、私以外の家族にはとても甘い。


もちろん注意することはあるけれど、言い方はあくまで優しく、それが原因で泣いている妹弟を見たことはない。


なぜか嫌な予感がしてリビングの扉を開けると、今にも怒りが爆発してしまいそうな母と、正座している弟、呆然と立ち尽くしている妹の姿があった。


弟は、聞いているこちらの心までもが痛くなりそうなくらい号泣していて、母はその声に負けないくらいの大声で怒鳴っている。


一目見ておかしいと思った。
私以外の相手でこんな風になっている母を見たことがない。


『お母さん!?何してるの!?』


声を出して反応をみるけれど、母に私の声は聞こえていないようだった。


『どうしてっ、どうしてなの光輝!お母さんよりもお友達を優先するの!?今までそんなことなかったのに!』


母の悲痛な叫びは、弟の泣き声を助長する。
まるで壊れたロボットのように謝り続ける姿は、どう表現したらいいかわからない感情に襲われた。


『もうその子と遊ぶのはやめなさい!!』


そう言って、ずんずんと弟の方へと近づく母に嫌な胸騒ぎがして、考えるより先に体が動いていた。
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