夜明け3秒前
バチン!と音が鳴って頭を叩かれる。
ぎゅっと守るように弟を抱きしめたおかげで、彼に彼女の手が当たることはなかった。


そこでやっと私が帰ってきたことに気がついたのか、母の標的は私へと変わる。


『なっ、なんであんたが!ふざけないで!全部あんたのせいよ!』


ヒステリックに叫ぶ母を横目に、妹へと声をかける。


『莉子、光輝と一緒に部屋へ行って』


妹は珍しく素直に頷くと、弟の手を握ってそそくさとリビングを出て行く。
母はそのことにすら気がつかない。


怒りで周りが見えてない。
ここまで酷いのは久しぶりだった。


『全部あんたのせいよ!あの人がああなったのも、(いつき)が家に帰ってこないのも、光輝が私を放っておくのも!』


私には言っている意味がほとんどわからなかった。
理解できるのは、ただ暴言を浴びせられて、殴られて蹴られているということだけ。


『この悪魔が!私よりもブスなくせに!あんたはバカよ!私の前から消えてよ!あんたなんか産まなきゃよかった!!』


そしてそのうち、まるで子どもみたいな暴言を吐く。
何度も何度も。

私はそういう存在なのだと嫌でも脳が理解するまで。


『お前たち何してるんだ!外にまで聞こえてるぞ!』


夜も更けてきたころ、父が帰ってきてやっとその場は収まった。
まるで生き地獄のような、長い長い時間だった。
< 58 / 192 >

この作品をシェア

pagetop