夜明け3秒前
待ち合わせの駅に着くと、朝早いのにたくさんの人がいた。
仕事に向かっているサラリーマンに、どこか遊びに行くのか、友達と楽しそうに話している同い年くらいの子たち。


今の時刻は7時40分過ぎ。
約束の時間まで20分くらいあるし、流川くんはまだ来てないかな。


どこか端っこで待っていようと思ってきょろきょろ見回すと、見覚えのある人物を見つけた。


綺麗な緑色のシャツにネックレス、黒いジーパン。
そして優しそうな綺麗な顔。


……あれ、絶対流川くんだ!
今日の格好も、遠くから見てもわかるくらい似合っている。


まさか待たせていたなんて思わなくて、彼の元へ走った。
キャリーケースがコロコロと地面を鳴らす。


「流川くん!おはよう、ごめんね待たせちゃって」


声をかけると、私の方を見てにこっと微笑む。


「おはよう凛月。さっき来たところだから大丈夫だよ」


その受け答え……なんだかかっこいいなあ。
感心していると、ははっと笑われる。


「それにまだ8時まで15分以上あるし。凛月は偉いな」

「えっ、そんなことないよ。それを言うなら流川くんの方が早かったし……」


それに、私が早く家を出た理由は、逃げたかったからだ。
『偉い』なんて褒められるものじゃない。


「俺は楽しみすぎて早く着いただけだよ、小学生みたいだろ?」


楽しそうに笑う流川くんを見て、なんだか心が洗われる。
彼がこの旅行を楽しみにしていてくれてよかった。


「……ううん、私も楽しみだった」


私と彼では、言っている意味が少し違うかもしれない。
それでもこの気持ちは嘘じゃなかった。


そのあとも少し話してから、2人で改札へと向かう。
長旅は始まったばかりだ。
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