夜明け3秒前
思えば、麻妃以外と外食をしたのは初めてかもしれない。
彼女ももちろんこういうお店は似合うんだろうけれど、私が遠出できないせいで、いつも近くのファミレスだった。


相手とお店が違うと、こんなに緊張するなんて。
私だけ場違いな気がして、周りの視線が気になってしまう。


「凛月?どうかした?」


挙動不審な行動をしてしまっていたのか、心配そうに声をかけられた。


「ご、ごめんね、なんだか緊張しちゃって……」


素直に話すと、彼は首をかしげる。


「緊張?やっぱり俺と話すの気まずかったりする?」

「えっ、違う、こともないかもしれないけど……その、お店がおしゃれすぎて浮いてないかなって」


流川くんは目をパチパチと瞬きさせると、優しく微笑んだ。


「凛月が?そんなことないよ。この店、凛月に似合うっていうか、好きそうかなって思って選んだんだし」

「えっ?」


彼がそう言ってくれたすぐ後に、店員さんが、注文したドリンクとパスタを運んできてくれた。
パスタは2人ともトマトソースパスタで、流川くんのドリンクはアイスティーだ。


目の前に置かれた瞬間、ほわほわと食欲をそそる、美味しそうな匂いがする。
写真の通り、綺麗に盛り付けがされてあった。


「いただきます」


2人で声を合わせて挨拶する。
フォークでくるくるパスタを巻いて、口へと運んだ。


「わっ、美味しい!」


思わず声が出た。
驚いて、それくらい美味しくて。


「ははっ、それはよかった」


目の前に座っている彼は、嬉しそうに笑っている。
なんだか恥ずかしくなって、顔がぽぽぽっと赤くなるのがわかる。

目を合わせることができなくなって俯く。
だけど流川くんが楽しそうに話すから、私もつられて笑ってしまう。


彼のおかげでその後は周りを気にせず、楽しくお昼ご飯を食べることができた。
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