夜明け3秒前
ぼーっと、女性たちが歩いて行った方向を見ていると、流川くんにいつもより少し低いトーンで声をかけられる。


「凛月、ごめんな」

「えっ?ううん、大丈夫だよ。それより、私も待たせてごめんね」


そう言って謝ったけれど、彼の眉は悲しそうに下がったままだ。
この空気をどうにかしたくて、できるだけ明るい声を出す。


「やっぱり、流川くんはモテモテだね!学校でも人気者だし、だから街でも……」


最初はちゃんと声を出していたのに、話している途中で話題を間違えたと気づき、どんどん小さくなっていく。

これだから私は……!と反省していると、ふふっと笑い声が頭上から聞こえた。


「ありがとう、そろそろ行こっか」
「う、うん!」


歩き出した彼は、もういつもの表情に戻っていた。
嬉しいけれど、なんだか胸がざわざわしてしまって落ち着かない。


それにしても流川くんがモテるということを実感してしまった。
理解はしていたけれど、まさかナンパされているところを見てしまうなんて。


あの女性たち……すごく綺麗だったな。
髪の毛はくるくるで、かわいいヘアアレンジがされていて、いい香りがした。

服もおしゃれだったし、顔だって整っていて、メイクもしていた。
それに比べて私は……

家族にブスって言われるくらいかわいくないし、髪の毛だってただ伸ばしているだけ。
メイクも何もかわいくなる努力なんてしていない。


そう気づいたら急に恥ずかしくなった。
隣にいる人は、こんなに綺麗な人なのに。


「ホテルに荷物を預けたあとは、ここら辺を少し観光しようと思うんだけどいい?」

「うん、大丈夫」


彼に優しく声をかけてもらっても、返事をするだけで精一杯だった。
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