夜明け3秒前
電車に乗り始めて3、4時間たったころ。
コテージの最寄り駅へと着いた。


ホテルの最寄り駅に比べて人が少なく、緑が多くて空気が美味しい気がする。
その景色の中でひときわ目立つのは、大きくて新しい建物だとわかる高層ビル。

おしゃれな字体だけれど、ここからでも見えるくらい大きな文字で、ホテルの名前が書いてある。


「流川くん、もしかして、あのホテルがパーティーの会場?」

「うん。この景色じゃ、あの建物はすげー目を引くよな」


彼の言葉に共感して頷く。
自然のなかにぽつんとあるせいで、なんだかすごい迫力がある。


それにしても、私ちゃんと話せてるかな……!?
やっと落ち着いてきたというか、元通りになってきた気がする。


ほっとしていると、彼は改札へと歩いていく。


「じいちゃんのコテージ、ここから15分くらい歩くんだけど平気?」

「平気だよ。ここの景色たくさん見たいし」


初めて来るところは、ただ歩いているだけでも楽しいから。
そう思って微笑むと、彼も安心したように笑った。


改札を出て、コテージまでの道のりを歩く。
蝉の鳴き声がとても近く感じて、急に飛んでこないかな、なんてちょっと不安になる。


しばらくたつと、緩やかな山道を上っていく。
いつも平たんな道しか歩かないからか、走っているわけじゃないのに息があがってくる。


「凛月、平気?休憩しようか」


私の少し前を歩いていた流川くんが、足を止めてこちらに振り返る。


「ふふ、平気だよ。ありがとう」
「しんどくなったら遠慮しないで言って」
「うん」


確かに運動不足だし、平たんな道を歩くよりきついけれど、私はそんなに弱くない。
それでも、こうして誰かに心配されるのはあまりなかったから嬉しい。

20分くらい歩くと、木造でできたコテージが見えた。
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