夜明け3秒前
「凛月、この旅行楽しい?」
「え?」


まさかそんなことを聞かれるとは思っていなくて驚く。
流川くんの表情は、さっきと変わって悲しいような、困っているような顔をしていた。


「すごく楽しいよ、どうして?」

「ならよかった。上手く言えないんだけど、なんか不安になってさ」


不安……?
彼がそんなことを思っていたなんて思わなかった。


「流川くん。私、この旅行に来れてよかったよ。確かに、緊張することとかあったけど……私を連れ出してくれてありがとう」


100%本音の言葉。
彼の目を見て言うと、安心したように目を細める。


「あーっ、よかった!不安吹き飛んだわ」


彼の表情に私もほっとして、口元が緩む。


「流川くんは……この旅行楽しい?」


反対に私が聞くと驚いたような顔をして、その後笑った。


「当たり前だろ!一人旅よりもすげえ楽しいから、来年も来てくれないかなって思うくらい楽しいよ」

「ええっ、嬉しいけど、それは……」


さすがに迷惑なんじゃ……
それに、来年も母たちは許可してくれたりするのかな。

うーん、と悩んでいると、ふふっと隣で笑われた。
もしかして、これも前みたいな冗談かな?


でもよかった。
私が来たせいで、流川くんの旅行を台無しにしちゃってるんじゃないかなって不安だったから。


「んじゃ、そろそろ戻ろっか」
「うん!」


席を立つ前に、彼から手を伸ばされる。
不思議に思いながら手を取ると、優しく引っ張りあげてくれた。

目が合うといつものように微笑まれる。
すぐに離れた彼の手は、とても温かかった。
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