夜明け3秒前
幸せな生活はあっという間に過ぎていく。
コテージで暮らし始めて、もう二週間も過ぎてしまった。


ここでの毎日は、今まで考えられなかったほど平和だ。
朝起きてから夜寝るまで、痛くて苦しいことなんて1つもない。

だけど私は、最近どうしようもなく辛いことが増えた。
痣も傷も治って、どんどんきれいになっていくのに。


どうしてなのか理由はよくわからない。
自分でもわからないから余計に怖くなって、苦しくなる。


酷い夢を見たせいで重く感じる体を起こし、ベッドから出た。
今日も天気がいいらしく、カーテンから眩しい光が射している。


鏡を見ると、あまり顔色がよくなかった。
最近、毎日のように夢を見るからかもしれない。


にこっと笑ってみても、なんだか気持ち悪く感じる。
仕方がないか、と諦めて、最低限身だしなみを整えてから部屋を出た。


廊下に出ると、朝食のいい匂いが漂ってくる。
引き寄せられるように1階へ降りると、キッチンには料理をしている清さんが、そして食器の用意をしている流川くんがいた。


「おはようございます」


挨拶をすると、2人とも私の方を見る。


「おはよう」


流川くんも清さんも、笑顔で挨拶を返してくれる。
あの家ではありえなかったことだ。


「ごめんなさい、準備手伝えなくて」

「かまわないよ。凛月さんはもっとゆっくりしてていい」


そう言った清さんは、とても優しい声だった。
私のこの気持ちも全部、包み込んでしまうような声だ。
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