15年目の小さな試練
 運転手さんから毛布をもらって医務室に戻ると、ハルちゃんは眠ってしまっていた。顔色は決して良くはないけど、さっき、激しく戻していた時よりはずっと良くなっていた。

「じゃ、行こうか。……えっと、車椅子ってある?」

「あ、僕が抱いていきますよ、車、すぐ外ですよね?」

 先生がそう言ったが、それは俺の仕事だろう。

「いえ、俺が抱いていくんで、大丈夫です」

 そう言うと、おばさんは面白そうに俺の顔を見た。

「陽菜、かなり細っこいけど、寝てるから結構重いよ?」

 うーん。叶太が軽々とハルちゃんを抱いて歩いているところなら、何度も見た。
 こんな風に具合が悪くてってのは、あんまり記憶にないけど、例えば、別荘のリビングで眠ってしまったハルちゃんを抱き上げて、とか。

 叶太にできて、俺にはまったく無理とか、さすがにないだろ。

「叶太ほど軽々とは行かないかも知れないけど、一応、俺も男ですよ?」

「……じゃ、お願い。だけど、念のため、村瀬くんも付いてきてくれる? 落としはしないと思うけど」

 さりげなく失礼な事を言われてしまった。
 だけど、万が一を考えたら、おばさんの言う事も分かる。

 先生が、

「もちろん」

 とハルちゃんの移動の準備をするのに合わせて、俺も毛布を持って、ベッドサイドに移動した。

 おばさんがハルちゃんと荷物と俺のデイバッグを持ち、オレは毛布にくるまれたハルちゃんを抱き上げる。先生はハルちゃんの靴を手にした。

 おばさんの言葉を受けて、かなりの負担を覚悟していたのだけど、思ったよりもスッと上がる。医務室のベッドが普通より高めだからかも知れない。

 だけど、それより何より、ハルちゃんは本当に細くて軽かった。

 ふわふわした柔らかい毛布越しに触れて尚、骨の感触を強く感じる。いわゆる、女の子らしい丸みとか一部で嫌われる脂肪の感触がほとんどない。
< 116 / 341 >

この作品をシェア

pagetop