15年目の小さな試練
「あれ? 意外と力あるんだね」

「……おばさん、俺を何だと思ってるんですか」

 思わず、苦笑いしながら言うと、

「いやだって、ねえ? 晃太くんの趣味って、ピアノでしょ?」

「そりゃそうですけど、身体のために、週一で一応、ジム行ってますよ」

「え!? 本当に!?」

 おばさんが本気で驚いた顔をする。
 ってか、その珍獣を見るような目、やめて欲しいんだけど。

「まあ、軽く泳ぐのが中心ですけど」

 経営者たるもの、健康第一。親父はそう言って、昔から運動にも食事にも気をつけている。そして、俺も叶太も子どもの頃から、自分の健康は自分で管理しろと、言い聞かされ続けている。

 多分、牧村のおじさんも何かしらやってるんじゃないかな? 均整のとれたいい身体してるし。

 明仁だって、運動部は面倒だしジムも時間取られるから嫌だと言いつつ、自室での筋トレは欠かさないと言っていたし、スポーツだって何やらせても、それなりに上手くこなす。身体が資本だと言って、一人暮らしのくせに食べるものにも気を使っていた。

 ただ、おばさんは仕事柄、生活が不規則かつ忙しすぎて、とても運動するような時間は取れなさそうだけど。

「いや、ごめん。あんまりビックリして」

 おばさんは笑いながら、先生の方を見た。

「大丈夫そうだから、村瀬くんはやっぱりいいよ」

「え? でもまあ、せっかくなのでついてきますよ」

 先生はそう言って医務室のドアを開ける。

「井村さん、少し出て来るね。すぐ戻るから」

「はい。こっちは誰も患者さんいないんで大丈夫です。……陽菜ちゃん、お大事に」

「ありがとうございました。お世話になりました」

 おばさんは、急にハルちゃんの保護者らしい声を出し、井村さんに向かって丁寧に頭を下げた。


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